ワーナー買収戦「トランプ家、エリソン家、中東マネー」の胡乱な煌めき
Foresight World Watcher's 6 Tips
ハリウッドの老舗映画スタジオ、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの買収をめぐって米メディア業界が激しい動きを見せています。Netflixによる買収で確定と思われたのも束の間、入札で競り負けたパラマウント・スカイダンスがより高い金額を提示して敵対的買収の開始を発表。事態の行方はまだ見えません。
Netflixとワーナーが統合された場合、米国内における動画配信サービスのシェアは30%を超え、反トラスト法上の懸念があるとされています。ドナルド・トランプ大統領も「市場シェアの問題」を指摘し、政府による介入もありうると発言しました。ただ、事はそうした理解だけでは済みそうもなく、この買収劇の背後には様々なプレイヤーの思惑が存在すると見られます。
まず、ワーナーはトランプ氏の大嫌いなリベラル系メディアであるCNNを傘下に持ちます。NetflixはこのCNNを買収対象に含めていないのに対し、パラマウントはCNNを含めます。つまり、パラマウントならばCNNの経営に関与できる立場です。そしてパラマウントのCEOはデービッド・エリソン氏、トランプ氏と親密な関係にあるオラクル共同創業者、ラリー・エリソン氏の息子です。
パラマウントの買収資金集めには、トランプ氏の娘婿であるジャレッド・クシュナー氏が大きな役割を果たしています。大口の資金の出し手はサウジアラビア、カタール、アブダビ、つまりクシュナー氏が米政府の外交でも重要な役割を果たしている中東マネーです。中東側からすれば、米国の文化に直接的な影響力を確保する足掛かりにもなるでしょう。
もう一つ見逃せないのは、目下、エリソン家のビジネスの総本山であるオラクルが、AI(人工知能)への巨額投資を不安視されていることです。オラクルは他のハイパースケーラーに比べて資本力が弱く、投資家はデフォルトに備えるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の購入を増やしています。だからワーナー買収でトランプ政権と手を組むのだ、と言えば穿ちすぎかもしれませんが、政治とマネーの結節点として頭に置いておきたい要素です。
今回はこのワーナー買収戦とAI投資に関する記事が中心になりましたが、先週の本欄で取り上げた米「国家安全保障戦略(NSS)」では「文明消滅の危機」だと酷い書かれようをしている欧州について、その“敗因”をテーマにした論考も興味深いものでした。フォーサイト編集部が熟読したい海外メディアから6本。皆様もよろしければご一緒に。
Netflix vs Paramount: politics could decide battle for Warner Bros【James Fontanella-Khan, Stefania Palma, Barbara Moens/Financial Times/12月10日付】
●ハリウッドの大物プロデューサー、デービッド・エリソンが8月、スタジオ大手パラマウントを80億ドルで買収↓
●エリソン、同業ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの買収も目指していることを表明↓
●ワーナーには他に、ストリーミング最大手のNetflix、メディア大手コムキャスも食指を動かすが、パラマウントが最有力の買い手と目さされる↓
●12月5日、Netflixによる830億ドル(負債込み)での買収提案をワーナー側が受諾↓
●8日、パラマウントが1080億ドル規模の敵対的買収案を表明
ワーナー買収をめぐる主要プレイヤーの動きを時系列で簡単にまとめると、このようになる。ハリウッド・メジャー2社とストリーミングサービスの盟主などが相食む争いは、巨大映像産業を舞台に巨額のカネが踊るビジネスストーリーとして充分に興味深いのだが、話はそれだけにとどまらない。
「パラマウントとNetflixがワーナー・ブラザース・ディスカバリー[WBD]の所有権をめぐって対峙するなか、別の勢力が戦いに備えている。トランプ政権だ。/ドナルド・トランプ大統領は日曜[12月7日]、WBDの最終的な買収先に関する決定に『関与する』と発言して大統領がどの買収先を支持するかについての憶測を生み、司法省の独占禁止法上の権限を通じて結果に影響を与える可能性も示唆した」
「パラマウントのデービッド・エリソンは、反トラスト法上の優位性を持つと見られてきた。その背景には、億万長者でオラクル創業者でありトランプの盟友である父、ラリー・エリソンの存在もある。今週、トランプ大統領の娘婿、ジャレッド・クシュナーがパラマウントの買収提案の資金提供者のひとりであることが明らかになったことで、この認識はさらに強まった」
英「フィナンシャル・タイムズ(FT)」紙は「Netflix対パラマウント ワーナーをめぐる戦いに決着をつけるのは政治かもしれない」(12月10日付)で、このように絵解きしている(筆者は米金融担当エディターのジェームズ・フォンタネラ=カーン、同司法担当特派員のステファニア・パーマ、EU[欧州連合]特派員のバーバラ・モーンズ)。
[Money Talks]Tinseltown tussle: the battle for Warner Brothers【Ethan Wu, Alice Fulwood, Tom Wainwright/Economist/12月11日公開】
また、英「エコノミスト」誌サイトのポッドキャスト番組「マネー・トークス」は、12月11日公開の「金ピカの街ハリウッドの乱闘 ワーナー・ブラザースをめぐる戦い」では、ゲストとして招かれた同誌メディア担当エディターのトム・ウェインライトがこう語っている。(ポッドキャスト番組だが、AIによる文字起こしあり)
「エリソン主導の案件と説明されていて、確かにエリソン家が約120億ドルを出資している。しかしその2倍の金額が、湾岸地域の3つの政府系ファンドによって出資されている。サウジアラビア、カタール、[アラブ首長国連邦の]アブダビだと思われる。以前の提案にはテンセントも含まれていた。これは中国のテクノロジー・メディア企業だ。現在は関与していないが、ごく最近まで参画していた。さらに大統領の娘婿も関わっている。ジャレッド・クシュナーの会社、アフィニティ・パートナーズも入札に関与しているのだ。[略]どう解釈するかはあなた次第だが、物議を醸すと言っておくのが妥当だろう」
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。