巨大地震の正しい理解――予知は不可能、予測は可能 課題は意思決定とどう結びつけるか|井出哲・東京大学大学院理学系研究科教授(3)
長野光と関瑶子のビデオクリエイター・ユニットが、現代のキーワードを掘り下げるYouTubeチャンネル「Point Alpha」。今回は、巨大地震の予測とその課題について、東京大学大学院理学系研究科教授の井出哲氏に話を聞いた。 ※主な発言を抜粋・編集してあります。
信頼できる「前兆」は存在しない
——昔から世界中で地震の予知や予測に関する研究が続けられています。
「まず、『予測』とは、確率的なものも含め、将来の現象を定量的に評価することです。確度の高低は置いておいて、統計や物理モデルを用いれば、地震の予測は可能です」
「一方、社会が期待している地震の『予知』は、ごく短い時間スケールで『ここで間もなく大地震が起きるから避難してください』と警報を出せる精度のものだと思いますが、現在の科学のレベルではほぼ不可能と言っても構わないくらい難しいと考えられています」
——地震予知が難しい理由とは?
「物理学的に言えば、地震現象は非線形性(※)が非常に強い、という点が挙げられます」
(※)非線形性:ある時点での変化率だけでは将来が予測できないという性質
「地震のプロセスは『岩盤が壊れてすべり、地震波が出て、それが地上に到達する』というものです。けれども、岩盤の破壊には摩擦すべりや岩盤の摩耗、条件によっては、局所的な岩盤の溶解やプレート内に含まれる水などの影響が絡み合います」
「それぞれの現象を物理学的な方程式で記述することができても、相互作用があるため、まとめて考えようとした途端に非常に複雑なものになります。初期条件のわずかな違いですら、全く異なる結果が得られます」
——地震直前に特有の兆候があれば、予知に使えるのではないでしょうか。
「実際に、1970年代から世界各地で巨大地震の前兆探しが精力的に行われました。半世紀にわたる膨大な試みに対し、国際的なレビューや学会の見解は『信頼して使える前兆現象は見つからなかった』という結論で現段階では一致しています。日本地震学会などもこの見解を支持しています」
「したがって、現時点では前兆に基づく地震予知はできない、というのが地震学のコンセンサスです。一方で、確率論に基づく予測は一定程度可能、と世界的に考えられています」
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
