巨大地震の正しい理解――謎の“揺れない”地震、「スロー地震」を解明する|井出哲・東京大学大学院理学系研究科教授(4)
長野光と関瑶子のビデオクリエイター・ユニットが、現代のキーワードを掘り下げるYouTubeチャンネル「Point Alpha」。今回は、近年になって初めて観測されたSSEとそれに伴う微振動の総称であるスロー地震について、東京大学大学院理学系研究科教授の井出哲氏に話を聞いた。 ※主な発言を抜粋・編集してあります。
SSEとは「ゆっくりとした断層のすべり」
——最先端の地震研究の中で「SSE」という言葉を耳にします。これはどういう現象でしょうか。
「地震とよく似た地下の岩盤の破壊すべり現象で、プレート境界でしばしば観測される『ゆっくりとした断層のすべり』です。通常の地震が強い地震波を放出して地面を揺らすのに対し、SSEは地震波をほとんど出しません」
「SSEに伴い、小さな揺れが地上で観測されることはありますが、震災を伴うような強い揺れを直接引き起こすものではありません」
——エネルギーで表すと?
「マグニチュード7程度に相当するSSEが起こることも珍しくありません。通常のマグニチュード7クラスの地震といえば、阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震を連想します。しかし、SSEは揺れが小さいまま地下で変形が進むため、同じ規模でも社会的な直接被害はほとんど出ません」
——どのようにして観測するのですか。
「広範囲の地表が年間数センチ単位でふだんとは逆の運動方向に動く現象が、四国、九州を中心に1997年から1年程度の期間で観察されました。日本列島にGPS(衛星測位システム)観測網が高密度に整備され、地表のわずかな位置変化を連続的に見られるようになったために、確認できた現象です」
「この地表の運動は、後に豊後水道下のプレート境界で起こったゆっくりとした断層のすべりによるものだと明らかになりました」
「つまり、私たちはSSEを『揺れ』ではなく、地表の『ゆっくりとした変位』を測定することで捉えているのです」
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