クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

友愛より母の愛 鳩山家の浮世離れ観

執筆者:徳岡孝夫 2010年1月号
エリア: アジア

 人間二人の名の一致は、世間に珍しいことではない。だが二組の父子の間に奇妙な偶然の一致があれば、つい気になる。 三島由紀夫(これは筆名。本名は平岡公威)は、息子を威一郎と名付けた。一方の高級官僚にして政治家であった鳩山威一郎は、長男を由紀夫と命名した。ただいま日本の総理大臣である。 由紀夫の子が威一郎と威一郎の子が由紀夫。それだけの話で、それ以上の不思議はないが、二組の父子の名がクロスした点が妙である。むろん二組の四人とも、一九七〇年あの市ヶ谷の「事件」前に生まれている。 三島由紀夫はバルコニーから演説し、自衛隊員に決起を促した。鳩山の由紀夫は米軍普天間基地の移設先を決める責任者で、これを書いている時点でまだ移設先は決まっていない。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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