内閣改造から見る仏サルコジ政権の今後

執筆者:国末憲人 2010年11月24日
エリア: ヨーロッパ

 ふたを開けたら何のことはない。全然変化がないじゃないか、と思った人も多かっただろう。フランスで11月14日に発表された新内閣。サルコジ大統領は、前日に辞表を提出したフィヨン首相を再び首相に指名した。
 当初6割を超えた大統領への支持率は、政権発足から3年半を経て3割台に後退し、閉塞感が広がり始めていたころだった。ラファラン元首相が「現状維持の気分を払拭せよ」と公然と首相交代を求めるなど、刷新を期待する声は与党「大衆運動連合」(UMP)内からも上がっていた。

大統領の「権力減退」を象徴

変化に乏しい新内閣の布陣(前列左からアリオマリー外相、フィヨン首相、サルコジ大統領、ジュペ国防相、コシウスコモリゼ環境相) (c)EPA=時事
変化に乏しい新内閣の布陣(前列左からアリオマリー外相、フィヨン首相、サルコジ大統領、ジュペ国防相、コシウスコモリゼ環境相) (c)EPA=時事

 なのに、結果的に首相以下、オルトフー内相、ラガルド財務相、シャテル国民教育相といった主要閣僚が軒並み留任した。副首相格の国務相兼外相にアリオマリー法相が横滑りし、同格の国務相兼国防相にはジュペ前環境相が返り咲いた。唯一の話題は、アリオマリー新外相の私生活でのパートナーであるパトリック・オリエ氏が議会関係担当相に就任し、フランス初の「夫婦で大臣」が実現した程度、と揶揄される始末だ。  直後の世論調査では、64%の市民が「新内閣を信頼できない」と回答。端から期待の薄い出発となった。  仏メディアの多くは、この人事を「サルコジの権力の減退ぶりを象徴するもの」と受け止めた。当初目論んでいた首相交代を実現できず、再任を果たしたフィヨン首相の影響力が強化されたうえ、サルコジ大統領から距離を置いていたコペ国民議会(下院)UMP議員団長が党事務局長に就任して発言権を強めたからだ。  フィヨン首相をすげ替える構想は、半年ほど前に大統領府(エリゼ宮)のスタッフの中から上がってきたという。フィガロ紙によると、この夏首相と会った大統領は「2人でいろんなことをやったが、3年半は長すぎるわな」と、慰労と取れる言葉を漏らした。フィヨン氏の方もサルコジ氏について「私の指導者、というわけではない」と述べるなど、大統領と距離を置き始めた。政権にとって今年最大の懸案事項は年金制度改革だったが、10月に入って成立の見通しが立つようになった。これを花道としての首相退任は、ほぼ確定的と見られていた。  後継としてエリゼ宮のスタッフらが期待したのは、UMPの一角を担う小政党「急進党」党首のボルロー国務相兼環境相だった。北部のかつての炭鉱都市バランシエンヌの市長として崩壊状態だった街の再建を成し遂げ、福祉や社会政策に通じた政治家として一躍名を上げた。その気さくな態度と庶民的な風貌から大衆人気も高い。政治的立場は中道で、右派本流のサルコジ大統領と路線が異なるだけに、大統領が再選に向けて支持基盤を広げるためにも有効だと見られた。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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