誰が「アラブ世論」を歪めているのか

執筆者:池内恵 2002年9月号
エリア: アフリカ 中東

「テロはアメリカ・ユダヤの陰謀」といった言説がアラブ世界ではいまだ支配的だ。非現実的な状況がなぜ続くのか。現代アラブ思想の潮流に理由を探った。 テロを一つの帰結として持つような心性を社会が胚胎してしまったという事実にどう立ち向かい、克服するか――。 これはテロ後のアラブ思想の大きな課題であり、9.11事件はアラブ世界に自己検証を促す機会となりえたはずだ。少なくともテロの実行犯がアラブ諸国の人間であり、イスラーム教の特定の解釈に支えられていたことは間違いない。逸脱した精神状態の者が予測不可能な事件を起こしたものでもない。しかし、アラブ世界では、テロという行動は別としても、それを正当化する論理展開自体はごく当然のものと受け止められている。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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