行き先のない旅 (7)

芸術を産むカタルーニャ魂

執筆者:大野ゆり子 2003年11月号
エリア: ヨーロッパ

 九月十一日がやってくると、カタルーニャ人の胸には熱いものが込み上げるという。もっとも、この「9.11」は、世界史を塗り替えた二年前の同時多発テロとは何の関係もない。彼らが思いを馳せるのは一七一四年の「9.11」。スペイン継承戦争でマドリッドを中心とするカスティーリャと戦ったカタルーニャが自治の特権を失い、バルセロナが陥落した日のことだ。敗北の結果、カタラン語が禁じられた。この屈辱の日の記憶は、三世紀近く経った今も、カタルーニャの“国民の祭日”として受け継がれているという。 私がバルセロナを訪れた九月十一日にも、ランブラスという遊歩道に沿った建物の窓からは、黄色の地に赤の四本線が入ったカタルーニャの旗がひらひらと翻っていた。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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