池内恵の中東通信
池内恵(いけうちさとし 東京大学教授)が、中東情勢とイスラーム教やその思想について日々少しずつ解説します。
国連機関の西アジア経済社会委員会(ESCWA:本部ベイルート)が最近発表した報告書で、「アラブの春」がもたらした経済的損失を6140億ドルと試算したことが話題になっている。“Arab Spring ‘cost region $600bn' in lost growth, UN says,” BBC, 11 November 2016.“ESCWA:…
シリア北部、アレッポ北方のマンビジュを制圧していたクルド人部隊YPG(人民防衛隊)が、マンビジュでの現地部隊の訓練を終えたとして撤退し、ユーフラテス河以東に移動し、クルド人勢力が主導して開始されている、「イスラーム国」のラッカの拠点の制圧作戦に加わる模様だ。1…
11月15日の早朝、ドイツの警察当局は、イスラーム教団体「真の宗教(Die wahre Religion)」のモスク・拠点の一斉捜索を行った。捜索の対象は10州の200カ所に及ぶという。当局は「真の宗教」からシリアやイラクにジハード戦士として渡る者が多く出ていることを理由としている…
2012年の北部マリ紛争、あれは何だったのか?と思っている人もいるでしょう。2014年のイラクとシリアでの「イスラーム国」の台頭ですっかり忘れられてしまいましたが、ティンブクトゥの霊廟破壊など、当時はずいぶん報じられたはずです。 12月10日(土)の12時頃から、渋谷の…
中国のインド洋進出の重要な結節点である、パキスタンのグワダル港の建設が進み、11月13日には開港セレモニーが行われる予定である。セレモニーでは中国領新疆ウイグル地区カシュガルから陸送されてきた貨物が中国のコンテナ船に船積みされ、中東・アフリカ向けに出航すること…
一般公開の講演会のお知らせ。11月25-27日に東大の駒場祭が開かれますが、そこで弁論部主催の講演会で登壇します。私に続いてトリには武装解除の伊勢崎賢治さんが登壇します。この欄で書いているような現状についてお話ししますので、ご関心のある方はどうぞ。池内恵「今、中…
昨日紹介したエコノミスト誌の地図にも記されているが、トルコはシリアとの900kmに及ぶ国境線に分離壁の建設を進めている。難民の流入や、PKKやPYD/YPGなどクルド系組織の戦闘員の流入を防ぐためである。トルコはこの壁を2017年2月中にも完成させるという。 この動きは他のシ…
ドイツ・ミュンヘンの、難民向けに建設が進む団地の周囲を、ベルリンの壁以上の高さの壁で囲んでいることが話題になっている。ベルリンの壁を壊して、難民受け入れなどでグローバル化を主導するドイツが、しかし「ミュンヘンの壁」を作っている、というところに象徴的な意味が…
昨日の「中東の部屋」で取り上げた、近代の国民国家・主権国家としてのトルコを根拠づけたローザンヌ条約について、補足として一つの記事を紹介しよう。 この記事はトルコの世俗主義派のメディアに載った、エルドアンのローザンヌ条約批判(=ケマル・アタチュルク批判、近代…
どことなく感慨を誘う記事を見つけた。 ギリシアのテッサロニキ(オスマン帝国時代の旧名サロニカ)とトルコのイズミル(旧名スミルナ)を結ぶフェリー航路の開設が計画されているという。 テッサロニキとイズミルを結ぶ航路が持つ歴史的因縁と、現代の象徴性は、拙著『サイ…
10月5日に、シリアのクルド人勢力が主導して、米軍の空爆支援を受け、「イスラーム国」のシリアでの「首都」ラッカの制圧に着手した。「ユーフラテスの怒り」作戦と名づけられている。アサド政権によるラッカ攻略に先んじて「イスラーム国」の主要拠点の制圧を進め、米国など…
10月の前半に、イエメンのフーシー派が、バーブル・マンデブ海峡付近で対艦ミサイルによる攻撃をUAEや米海軍の艦船に対して行った件、それに対する米国海軍の限定的な空爆が行われた件では、リアルタイムで「中東通信」に寄稿しておいたが、この件についてまとめた論考を、『…
「イスラーム国」のイラクの中心拠点の指導者アブーバクル・アル=バグダーディーのものとみられる音声声明が、11月3日未明にインターネット上で公開された。2014年6月のモースル占拠直後に、ラマダーン月の最初の金曜礼拝に姿を現した映像が世界を駆け巡ったバグダーディーだ…
モデレーターとして、質問シートに書き込まれた質問を、講演と講演の間の短い時間に50枚ばかり急いで目を通し、分類して整理し、とりまとめて私の言葉でコメントにまとめ、各講演者への質問としたのだが、感心したのは、質問の質である。これまでは中東関連の講演会やセミナー…
今日(すでに日付が変わっているが)のセミナーで、まず興味深いのが、中東地域政治(地域国際政治)を論じる際に、対象が、イラン・トルコ・サウジだったことだ。私はモデレーターとして中東の全体を見て議論を喚起する役割を負っており、また私の専門性としても、中東全域の…
今日はジェトロ・アジア経済研究所のセミナー「中東域内政治の新展開−−イラン・トルコ・サウジの事例から」で、パネルディスカッションのモデレーターを務めていた。午後いっぱいをかけて行ったアジ研のセミナーに続き、その後、とある研究所の研究プロジェクトの研究会に行…
イエメンを中心とした紅海岸地域のシーレーンの安全保障に関わる緊張、特にバーブル・マンデブ海峡付近での、イランの支援を受けたとみられるフーシー派のより積極的なアクセス拒否活動が問題化している。先日来、この欄ではこの問題を取り上げ(11日の記事1、記事2)、本日…
ここのところ続けて言及してきた紅海岸地域の安全保障問題、特にバーブル・マンデブ海峡の安全通航をイエメンの多くを制圧したフーシー派が脅かす兆しについて、続報である。10月9日に続いて、10月12日にまたも、バーブル・マンデブ海峡に急派された米海軍艦船USS Masonに対し…
米ワシントン近東政策研究所の分析によれば、10月1日にイエメンのモハー沖でUAE海軍が使用する輸送高速船Swiftをフーシー派がミサイル攻撃で大破させた事件で、フーシー派が用いたのはレーダー誘導による対艦ミサイルC-802である可能性が高いという。C-802は中国製だが、リバ…
中東情勢というと、どうしてもシリアやイラクに関心が集まる。つまり中東地域の中の下位地域(sub-region)でいえば「レバント」地方や「肥沃な三日月地帯」の紛争に目が向きがちだ。米国とイランの対立や、イランとサウジアラビアの競合といった話題では「ペルシア湾岸」が問…

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