池内恵の中東通信
池内恵(いけうちさとし 東京大学教授)が、中東情勢とイスラーム教やその思想について日々少しずつ解説します。
7月1・2日のダッカのカフェへのテロで、インド亜大陸への「イスラーム国」あるいはグローバル・ジハード理念の拡散が顕著になったが、これがインドに波及することが危惧される。「イスラーム国」の英語宣伝誌の『ダービク』は、4月刊行の号で、「ベンガルのアミール(カリフか…
6月28日夜にトルコのイスタンブル・アタチュルク空港で起きた銃撃・自爆テロ事件は「イスラーム国」の犯行と見られるが、ジハードの共通理念に共鳴して各地の多種多様な勢力が集まる「イスラーム国」については、「どのような」主体が今回の事件を行ったかがより重要である。…
リビアの西部ガラブリでの抗争と、国際社会の関心事スィルトでの戦闘についてこの前のエントリで記したが、今度は東部を見てみよう。東部の中心都市はベンガジで、ここでは各種の民兵集団が競っている。東部を拠点とする2014の選挙を根拠とする代議員議会(House of Represent…
リビアの内戦の終結への道のりは険しい。昨年12月17日には、東西分裂政府の交渉担当者たちによって国民合意政権(Government of National Accord: GNA)の設立で合意された。紆余曲折あって欧米諸国と安保理の支持も得て結成されたGNAが3月30日に首都トリポリに上陸し、統治体…
6月21日朝、ヨルダンの北東部の辺境、シリアとの国境の町ルクバーンで、ヨルダン軍の部隊に対するテロで6人の兵士が死亡し、14人が負傷した。"Jordan soldiers killed in Syria border bomb attack," al-Jazeera, 21 June 2016."Jordanian troops killed in bomb attack at S…
シリア北部のトルコ国境地帯の「イスラーム国」の押さえる要衝マンビジュを、米国が支援するシリア民主部隊(SDF)が制圧しようと中心部に攻勢をかけている。SDFはクルド人民兵組織YPGの傘下にあると見られるため、YPGをテロ組織として敵視するトルコは警戒しているが、今のと…
今後の原油価格はどうなるのか。サウジアラビアやイランやイラクなどのOPEC諸国、ロシアなどの非OPEC諸国の動きとともに、米国のシェール・オイルを算出する企業の動向が気になるが、ここのところの報道によれば、有力な企業はかなりしぶといようだ。原油価格が高い時は1バレ…
6月16日のニューヨーク・タイムズ紙が、米露合意で義務づけられた停戦を守っていないアサド政権に対して、米国は標的を絞り込んだ空爆などを行うべきだ、とする国務省内の「メモ」の存在を報じた。"51 U.S. Diplomats Urge Strikes Against Assad in Syria," The New York Ti…
6月12日のフロリダ州オーランドのナイトクラブへの銃撃テロについて、翌朝のブリーフィングでオバマが「触発された(inspired)」と「指示された(directed)」を使い分け、inspireされたものだという現時点での見通しを示していたことを前項で示した。この使い分けは、国際…
6月12日の米国フロリダ州オーランドで起きた、ゲイのナイトクラブPulseで49名を殺害し犯人も死亡した事件に対して、翌日のオバマ大統領の二つの会見での言葉の用い方から、事件の性質をどう認識しているか、この問題の政治的な波及を最小限にするためのどのようなメッセージ発…
6月12日と13日に、米国とフランスでグローバル・ジハードの事例と見られる殺人事件が相次いだ。これらの事件は、相互につながりが乏しいか、あるいは全くない、個人や組織がグローバル・ジハードの思想に感化され、自発的に呼応して行ったものと考えられる。2000年代半ばから…
6月2日にウィーンで行われたOPEC総会で、予想通り、生産調整(増産凍結、生産枠の変更、生産据え置き、生産目標の再設定、等々日本語では様々な表現が用いられるが)に関する合意はなされなかった。予想されたことであるため、石油市場もそれほど大きく反応しなかった。サウジ…
6月2日、ドイツ連邦議会はオスマン帝国による第一次世界大戦中のアルメニア人への迫害を「虐殺」と認定する決議を行った。直接的に政府の行動を縛るものではないが、ドイツとトルコの外交関係に支障をきたす影響を及ぼすことは確かだ。第一次世界大戦中の1915年にオスマン帝国…
ブラジルでルセフ大統領が上下両院で弾劾決議を受け、180日間の職務停止となっている。そのためミシェル・テメル副大統領が大統領代行を務めている。中南米の政治家で、どこかアラビア語風の名前があると、おそらくレバノン系あるいはシリア系であると予想がつく。調べてみる…
チュニジアのナハダ党が5月20日から23日にかけて党大会を開いたが、そこで政教分離を方針として明確にし、イスラーム主義政党ではなくムスリム民主主義政党として党の理念を再定義したことが注目されている。CNNのクリスチャン・アマンプールによるナハダ党の指導者ガンヌーシ…
シリア内戦では、名目だけの和平協議がジュネーブで行われてきたが、アサド政権は任意の敵対勢力を「テロリスト」と認定すれば攻撃を続けられるという根本的な欠陥のある仕組みであるため、成果は望めない。和平協議の結果として進めることになっている和平プロセス、つまり(…
昨年から今年にかけて、パリとブリュッセルで「イスラーム国」やアル=カーイダに共鳴したテロが続いた。なぜ西欧の若者の一部が過激化するのか。その原因をめぐってフランスで論争が起きている。 論争の当事者は、フランスの現代イスラーム研究の両巨頭と言えるジル・ケペル…
百年前の1916年の5月16日に、サイクス=ピコ協定が結ばれた。シリアやイラクやイスラエル・パレスチナなど、中東の現在の諸国家を形作る基礎となった、当時の列強の英・仏による合意である。これにはロシアやイタリアなども同意しており、それぞれに当時の中東を支配していた…
アル=カーイダの最高指導者アイマン・ザワーヒリーの音声メッセージがインターネット上で5月8日に確認された。今回のメッセージはシリア内戦に関するもので、現地のイスラーム主義系の諸勢力に団結を呼びかけている。"Al Qaeda chief tells jihadist fighters in Syria: Unit…
4月10日の未明、日付が変わってすぐに、「『チラン海峡』に架ける橋:サウジ・エジプト・イスラエルの地政学」を「中東の部屋」欄にアップして安心して眠りについたのだが、中東情勢は油断ならない。特に時差が曲者である。日本とエジプトの間の時差は7時間あるのだが、現地の…

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