パキスタン情報機関、対米ロビイ活動にも関与

執筆者:春名幹男 2011年8月1日
カテゴリ: 軍事・防衛
エリア: 北米 アジア

 米連邦捜査局(FBI)はこのほど、「外国代理人」登録をしないままロビイ活動をしていたとして、パキスタン系米国人サイド・ファイ容疑者(62)を逮捕、もう1人のパキスタン在住米国籍の男を指名手配した。
 ファイ容疑者はカシミール米国協議会(KAC)の所長で、過去20年間にわたって、カシミールの民族自決を訴えるイベントの開催やロビイ活動を行なってきた。外国機関のためのロビイ活動は司法省に登録しなければならないが、登録を怠った疑い。また、民主、共和両党の米政治家に選挙資金を提供してきた事実も分かった。彼らが支出した資金は20年間で計400万ドル(現在の為替レートで約3億円)に上る。
 FBIの宣誓供述調書によると、KACは表向きカシミールの組織が米国の資金を使って運営していることになっているが、実際は情報機関、パキスタン三軍統合情報総局(ISI)などパキスタン政府機関によって運営されている、としている。
 この事件では、KACから、カシミール問題に熱心に取り組んできた共和党のダン・バートン下院議員(インディアナ州選出)は計2万ドルの政治資金を受け取っていたことが判明。このほか、民主党下院議員や民主党のゴア、オバマ両選対にも少額の寄付をしており、ISIの米政界工作が明るみに出た形。
 5月のビン・ラディン殺害事件以後続く、パキスタンと米国の情報機関同士のつばぜり合いの一環、と言える。FBIは通常、外交・政治への配慮なしに捜査を進めることが多い。このため、オバマ政権内では、事態を収拾してパキスタンとの関係を回復したい国務省などとの調整が難しい課題になる可能性がある。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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