“海の火薬庫”南シナ海問題で攻勢強める中国

執筆者:三井潔 2012年8月6日
エリア: アジア

「機が熟していない」。カンボジアの首都プノンペンで7月11日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国との外相会議。中国の楊潔篪外相は、南シナ海での紛争回避を目的に法的拘束力を持つ「行動規範」策定に向けた協議に、直前の高級事務レベル会合で合意しながら、結局は協議入りを見送った。
 楊氏はこの場で、「ASEANの一部の国が一方的で挑発的な行動をしている」と、暗にフィリピンやベトナムを非難、ASEANを揺さぶった。

対立が先鋭化

 中国や台湾、ASEANの一部加盟国の計6カ国・地域が領有権を争う南沙(英語名スプラトリー)諸島を抱える南シナ海で緊張が高まっている。かつて中国とベトナムが戦火を交えたこともある「海の火薬庫」では、海洋権益の拡大を図る中国に、フィリピンやベトナムが反発、対立が先鋭化する局面が増えているからだ。  南シナ海は魚など海洋資源が豊かでインド洋と東アジアを結ぶ要路。太平洋戦争中は、日本軍が西沙(英語名パラセル)や南沙などを占領した。石油や天然ガスの埋蔵量が豊富と確認された1970年代以降、各国の領有権争いが熱を帯びる。西沙も南沙もいずれも小さな島や環礁などで人が暮らすのには適さないが、各国が実効支配を競った。  西沙では1974年、中国軍が南ベトナム(当時)軍を撃破し実効支配を固めた。1988年には南沙の赤瓜礁を中国軍がベトナム軍と銃撃戦の末に奪った。  1995年には、中国がフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にある南沙のミスチーフ礁に建造物を建設。「漁民の避難小屋を建てた」と強弁するなどトラブルが相次ぎ緊張が高まった。事態沈静化に向け、ASEANと中国が2002年、領有権争いの平和的解決や武力の不行使などを謳った「行動宣言」に署名した。ただ行動宣言には実効性がないため、ASEANは法的拘束力のある行動規範への格上げを求めていた。  100以上の島や環礁などがある南沙では、ベトナムが最多の20以上、フィリピンが9、中国が7以上、マレーシアが5以上の島や礁をそれぞれ実効支配し、台湾が南沙最大の島を占拠、ブルネイは自国沖にある島や礁の領有権を主張している。行動宣言合意後は、この「支配の構図」が固定化している。

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