「中韓経済失速」と東アジアの不信連鎖
退任間際の李明博韓国大統領のパフォーマンスが、日本を取り巻く東アジアの不信連鎖に火をつけてしまった。李大統領の竹島上陸と天皇謝罪要求、香港の活動家たちによる尖閣諸島・魚釣島への上陸、中国各地での反日デモ、果ては丹羽宇一郎駐中国大使の公用車襲撃――。「反日無罪」のナショナリズムが荒れ狂う東アジアは、欧州債務危機というニュースに飽きたマネー市場の神々にとって、新たな混乱の源泉になろうとしている。
計画的な「テロ行為」
これは白昼堂々、公然たるテロと呼ばれるべき振る舞いではないのか。8月27日午後4時過ぎ、中国の首都・北京市内で大使の乗る公用車が、2台の自動車に強制停車させられ、車両前方に取り付けた日の丸を奪われたというのだ。
単なる偶発事件ではない。1台の車が公用車をしつこく追い回したうえ、もう1台の車と組んで公用車の前方を遮った点からも、狙い澄ました凶行であることがうかがえる。ギャング映画がお好みの方なら、ヒットマンたちの襲撃シーンにそっくりだと察しがつこう。
舞台は交通渋滞のひどい北京の街である。よほど用意周到に犯行を計画していたに違いない。丹羽大使や大使館職員に危害が加えられなかっただけでも、不幸中の幸いというべきだろう。それにしても今回の事件は、大使一行の行動がテロリストたちに筒抜けだった可能性があることを示唆してはいまいか。情報管理や警護のあり方は、アフガニスタンやイラクなどの国々の例を参考に、抜本的に見直さざるを得まい。
大使館の職員は、日の丸を持ち去った犯人の顔や車両のナンバーを、携帯カメラに収め、中国側に突きつけたという。流石の中国当局もシラを切れず、遺憾の意を表明した。遺憾の意? 大使公用車へのテロ行為が遺憾で済むなら、外交も何もあったものではない。それにしても中国側の素早い対応の裏には、尖閣問題での自分たちの立場が損なわれないようにしたいという意図が、透けてみえるようだ。
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