「黄金の落下傘」を打ち破った男――スイスで高額報酬・退職手当規制

執筆者:国末憲人 2013年3月7日
エリア: ヨーロッパ

 欧州で割と頻繁に耳にする経済ニュース用語に「ゴールデン・パラシュート」(黄金の落下傘)という言葉がある。自分だけ助かろうと、墜落していく飛行機から落下傘で飛び降りる。しかも、その落下傘は高価な金でできている……。転じて、企業が沈みゆくにもかかわらず法外な退任手当を手にする経営者の傲慢さ、自分勝手さを批判する時に使われる。


 日本語で「特恵的退任手当」などと訳され、企業防衛のために導入された制度だった。役員が就任時に「会社が買収された場合には、高額の手当を得て退任する」旨の契約を会社と交わす。そうすると、高額手当が壁となって、買収される恐れが少なくなるからだ。しかし、それは逆に、役員の役得でもある。企業が買収され、多くの従業員がリストラされて路頭に迷うにもかかわらず、役員だけが莫大な富を手に着地できる。

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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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