経済の頭で考えたこと (59)

「王岐山」と「トクヴィル」

執筆者:田中直毅 2013年6月11日
エリア: アジア
 チャイナ・セブンの1人、王岐山氏 (C)AFP=時事
チャイナ・セブンの1人、王岐山氏 (C)AFP=時事

 中国共産党・中央規律検査委員会の書記になった直後の昨年11月に王岐山がアレクシス・ド・トクヴィル著『旧体制と大革命』を読むべし、と部下たちに述べたという話が伝えられた。今日でも北京では「トクヴィルとはいかなる人物なのか」という話題は有識者の間に広がっている。

 1990年代後半、王岐山が広東省の副省長のとき、人を介して面談したことがある。当時は広東省が設立したGITIC(広東国際信託投資公司)が不良債権の山をつくり、債権者に対してヘア・カット(部分的な債権放棄)を迫るという状況であった。私が伝えたかったことは、邦銀はGITICへの貸し出しに関してデフォルト(弁済不可)が生ずるとは受け止めてこなかったし、彼らがそう確信していたのは勝手な思い込みではなく中国側は繰り返し元本は政府によって保証されると述べていたからだ、と述べた。「もしデフォルトとなれば、日本の与信者の対中警戒心は高まらざるをえない」と付け加えた。当時は西側からの対中関与に占める日本の比重は今日とは異なり無視できないほど高いものであった。王岐山は当惑気味にこれを聞いていたが、「ヘア・カットは中国の与信者に対しても同様であり、破綻処理原則そのものに歪みはないはずだ」と答えてこのテーマは打ち切りにしたい様子であった。

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執筆者プロフィール
田中直毅(たなかなおき) 国際公共政策研究センター理事長。1945年生れ。国民経済研究協会主任研究員を経て、84年より本格的に評論活動を始める。専門は国際政治・経済。2007年4月から現職。政府審議会委員を多数歴任。著書に『最後の十年 日本経済の構想』(日本経済新聞社)、『マネーが止まった』(講談社)などがある。
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