クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

倒れかけたら内側へ押そう

執筆者:徳岡孝夫 2005年2月号
エリア: アジア

 これまでの日朝交渉でわれわれが得た結論は、金正日とその手下は、恥知らずのウソつきであるということだった。そのうえ彼らは虚勢を張る。 日本外務省が二十年間必死に抑えてきた横田さんら拉致被害者家族の声が、抑えきれなくなったとき、食糧援助を話し合う席で日本側が一言「拉致の問題が……」と口を滑らせた。北朝鮮の代表は、たちまち激昂した。「我が国は拉致などしていない」と言った。 また日本の記者団が、東京だか北京だかで、やはり北朝鮮高官を囲み、うち一人が「拉致」を口にした。途端に高官はキッとなり「その言葉を使うな。それを言うと日朝関係はこじれる」と怒った。北朝鮮の機嫌を損ねたくない日本の左翼新聞は、しばらく拉致被害者を「行方不明者」と言い換えた。小泉首相が初めて金正日に会う、ほんの一年か二年前のことである。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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