クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

人が憎悪によって動くこわいこわい文化革命

執筆者:徳岡孝夫 2005年9月号
エリア: ヨーロッパ 中東

 オランダの映画監督で、かのヴィンセント・バン・ゴッホの弟で画商だったテオが曾祖父に当たるというテオ・バン・ゴッホが殺された。去年十一月のことである。 アムステルダムの朝のラッシュの中を、テオは自転車で走っていた。一人の男が彼を呼び止め、ナイフを取り出して刺した。テオが死ぬまで何度も何度も刺し、ゆっくりと現場を立ち去った。後に警官隊との撃ち合いのすえ捕まった。ムハンマド・ブイエリ(二七)というオランダに生まれ育ったモロッコ人で、イスラム原理主義者だった。先日、オランダの法廷で終身刑の判決を受けた。死刑がないかわり、オランダの終身刑は掛け値なしである。ただいま服役者十六人。釈放された者は六十年間にたった二人だそうである。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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