町に新しいビルが建つと、建つ前そこに何があったか、なかなか思い出せない。たとえば霞が関ビル。昔あそこには何が立ち、どんな風景があったか? 都市生活者は新しいビルの前にたたずみ、失われた記憶を取り戻そうと試みて途方に暮れる。 桑田変じて滄海となる。まだ朝日新聞社が数寄屋橋にあった頃の話である。私は頼まれて「ニューヨーク・タイムズ」に何回かコラムを書いた。パソコンやファクスが発明される前だから、毎回タイプライターで打ったのを持って朝日新聞社へ行った。裏のエレベーターで六階だか七階だかに行くと、NYタイムズの支局がある。私の記事は、そこからテレックスでニューヨークへ行ったと記憶している。
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