クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

情けは人のためならず

執筆者:徳岡孝夫 2013年12月10日
エリア: アジア

 新聞社の特派員として私がバンコクに駐在していたときの話である。1960年代の後半。土曜日の午後、われわれ外国人特派員は、サマセット・モームゆかりのオリエンタル・ホテルが提供した客室「記者クラブ」に集り、悠揚たるチャオプラヤ川を眺めながら夕方までを飲んで過した。それは情報交換の場でもあった。

 英語を喋れるタイ人記者も来た。かなり酒が回った日のこと、タイ記者の1人が私に質問した。

「日本人は賢い民族だ。テープレコーダーでも何でも、最高のものを作る。それなのになぜ、風が吹いただけで人が何人も死ぬんだ」

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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