「秘密警察疑惑」でも政権入り「劣化」するチェコ政界

執筆者:佐藤伸行 2013年12月11日
エリア: ヨーロッパ

  生涯を自由と人間の尊厳のための戦いに捧げ、1989年のビロード革命を指導した故ハベル・チェコ大統領もさぞ草葉の陰で嘆いているのではないか。

 ハベル氏と親交を結んでいた南アフリカ共和国の反アパルトヘイトの闘士マンデラ元大統領が死去し、世界中が哀悼の意をささげる中、チェコのルシュノク首相が議会内で閣僚と私語を交わし、「(マンデラ氏の)葬儀なんぞ行きたくない」と吐き捨てた発言が漏れたのだ。詳しく言うと、漏れたというよりも、首相の肉声は気づかないままオンになっていた議場のマイクに拾われ、公共テレビでも放送されてしまった。「葬儀に行くと考えただけで身の毛がよだつ。南アの遠さときたら地獄の沙汰だ」「あんなところには大統領が行けばいいのさ。でも無理だろうから結局、おれがやられてしまうわけか」――などなど、公の場では許されない4文字言葉も交え、マンデラ氏への敬意の片鱗すら感じさせない乱暴な言葉遣いだった。結局、騒ぎを引き取る形でコホウト外相が葬儀に参列したが、ビロード革命から約4半世紀を経たチェコ政治指導層の「劣化」を印象付ける一場面だったと言える。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
佐藤伸行(さとうのぶゆき) 追手門学院大学経済学部教授。1960年山形県生れ。85年早稲田大学卒業後、時事通信社入社。90年代はハンブルク支局、ベルリン支局でドイツ統一プロセスとその後のドイツ情勢をカバー。98年から2003年までウィーン支局で旧ユーゴスラビア民族紛争など東欧問題を取材した。06年から09年までワシントン支局勤務を経て編集委員を務め退職。15年より現職。著書に『世界最強の女帝 メルケルの謎』(文春新書)。
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