一九六〇年代の話。バンコクへ特派員として赴任した私は、日本大使館へ挨拶に行った。大した情報の出どこではないが、まあ表敬訪問である。大使室で名刺を出して「秋には佐藤総理が訪タイされますが」と会話を試みた。大使は言下に答えた。「あんなヤツ、世が世ならば叩ッ殺してやるところだ」 内心おやおやと呆れた。だが、この人はこういう物の言い方をする人なんだろうと善意に解釈し、着任の挨拶だけで帰った。いまでも少し後悔している。オフレコの約束もなかったし、あれは「現地の××大使は今秋に公式訪問する佐藤栄作首相を、口を極めて罵った」と、記事にすべきだった。
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