「日が暮れるまでには、着けると思うのですが」。どこまでも続く深い森。その中を突き抜ける、がらんとしたアスファルトの州道。道路脇のガソリンスタンドから電話を入れた。 まだ携帯電話も普及していない一九九一年七月初めのことだ。アメリカ・ミシガン州の深奥部。深い緑の木々の上を見上げると、空は抜けるように青かった。向かうのは、メコスタ村。現代アメリカ思想について考え出すまで、見たことも聞いたこともない地名であった。その名が「聖地」のような響きをある人々に与え、そこに住む一老人が「メコスタの賢人」と呼ばれていることも、つい数カ月前にはまったく知らなかった。

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