一九八六年にソ連(当時)の原子力発電所の炉一基が爆発し、放射性ある「死の灰」を大気中に撒きちらした。日本にも一部が降った。その日まで日本人は、チェルノブイリなんて地名、見たことも聞いたこともなかった。ソ連政府が発電所の存在を機密にしていたので、地図にも出ていなかった。 もし地球上の陸という陸に降り積ったらどうしよう。地上に生える物はすべて汚染され、海の魚も汚れ、全人類が死んでいくではないか。生きている幸せも、もはやこれまで。人類は死刑執行人チェルノブイリの手にかかって死に絶える。どんな顔したヤツが犯人か、見当もつかないが、生きていた人間は、運命が否応なくチェルノブイリという未知の土地に繋っているのを知った。

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