行き先のない旅 (79)

「子供向けの音楽」という思い込みについて

執筆者:大野ゆり子 2009年12月号
エリア: ヨーロッパ

 小学生時代に音楽教室というものがあった。全校生徒でコンサート会場に足を運んで生の演奏に耳を傾けるという貴重な催しのはずなのだが、特にクラシックファンでなかった私は、たいてい第二楽章の半ばあたりで眠気に襲われてしまう。「どのぐらいでこの曲は終わるのかな」と思いながら過ごす時間は苦行に近かった思い出がある。 そのせいか、長いことクラシックの演奏会といえば「眠気との戦い」が付きものであり、それに打ち勝ったところで華やかな最終楽章を迎えるのが一種の通過儀礼のように思っていた。音楽教室で演奏されたプログラムは、たいてい、ベートーベンの交響曲第五番「運命」や第六番「田園」といった当時の文部省が選定した名曲だった。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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