久しぶりの東京で飲みに行ったときのこと。ちょうど世間では「事業仕分け」の風が吹き荒れていた。夫と、夫の飲み友達で日本を代表する作家は、外国に行った折の話に花を咲かせていた。外国で遭遇した忘れがたい経験、人々。尽きせぬ話の中で、ふと、両者とも今回見直しの対象となった「芸術家の国際交流事業」によって、海外で見聞を広めたことがわかった。 夫の場合は、行政刷新会議で約七億円の予算額が問題視された「新進芸術家の海外研修」によってミュンヘンのバイエルン国立歌劇場で研修した。若い指揮者は、若い故に指揮経験がなく、経験がないからさらに機会が与えられないという、堂々めぐりに悩む。バイオリニストやピアニストならば、十代初めでもプロとして活躍し、収入を得ることも可能だろう。指揮者の場合には、そうはいかない。

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