死刑は深く重い命題で、死刑について考える人はしばしば無言に追い込まれる。「人が人の命を絶っていいのか」「人はよく過ちを犯すものだ」という認識や疑問が絡まり、安直な断定を阻む。かと思えば、問題が大きすぎるせいか、奇妙な行動を取る人がいる。 日本にも、その手の政治家がいた。彼女は死刑制度を嫌悪する法律家だったので、選ばれて法務大臣になって最初のうちは、死刑執行命令に署名しなかった。 しかし日本国刑法が死刑という罰を認めている以上、大臣が死刑を行なわないのは職務規律に違反する行動である。死刑がイヤならイヤでいい、法務大臣にならないかと誘われたときハッキリ断るべきだった。私的な信念とそれを否定する公的な義務を、使い分けて月給を取ろうとは厚かましい。

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