百年後の世界

執筆者:長谷川眞理子 2001年7月号
タグ: 歴史

 古来より、人は、昔に比べて社会が悪くなっていると感じる傾向があるらしい。「最近の若い者は悪くなった」という嘆きは、何千年も前からつぶやかれている。もしもそれが本当ならば、どこでも世の中はどんどん悪くなって、とっくにつぶれているに違いないのだが、そうなってはいない。事実は、世の中が変化しているだけで、一方向的に悪くなっているわけではないのだろう。 もしかしたら、私たちは今、人類の歴史の中でもまれに見る幸せな時代を生きているのかもしれない。もっとも、「私たち」というのは、人類の中でも先進国の一部の人間にすぎないのだが。と言うのは、私たちは、電気製品その他が発達して快適に暮らすことができ、自動車や飛行機による大量輸送の恩恵にあずかっている。科学の発展によって自然現象の理解が進み、迷信や因習から自由になった。コンピュータや通信技術の発達によって世界が縮まった。医学の発達によって、小さな子どもが死ぬという悲しみがまれになり、大きな戦争がなくなったことで、成人した子どもが死ぬという悲しみもまれになった。そして、地球環境問題が叫ばれていながら、いまだにそれほどの規制や不便さを強いられてはいない。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
長谷川眞理子(はせがわまりこ) 進化生物学者。1952年、東京都生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。専門は進化生物学、行動生態学。イェール大学客員准教授、早稲田大学教授、総合研究大学院大学教授・学長などを経て、2023年4月より日本芸術文化振興会理事長。著書に『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書)、『モノ申す人類学』『自然人類学者の目で見ると』(いずれも青土社)、『進化的人間考』(東京大学出版会)、『美しく残酷なヒトの本性 遺伝子、言語、自意識の謎に迫る』 (PHP新書) など多数。
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