ブックハンティング・クラシックス (18)

生物学の大著が巻き起こした不毛かつ意義深い大論争

執筆者:長谷川眞理子 2006年8月号
タグ: 生物 アメリカ

『社会生物学』エドワード・O・ウィルソン著/伊藤嘉昭監修新思索社 1999年刊「社会生物学論争」というものをご存じだろうか? 一九七五年以降、欧米で十年以上にわたって続いた、イデオロギー色のきわめて強い学問論争である。論争にかかわったのは、進化生物学者、行動生態学者、人類学者、社会学者、哲学者、フェミニスト、マルキシストなどなどである。大きく分ければ、進化生物学者と人文社会系諸学の学者との間の論争だが、進化生物学者、またはもっと広く生物学者の間でも、意見の違いは顕著にあった。それは、異なる学問領域間の論争というよりは、人間という存在をどう見るかについての人間観の違い、イデオロギーの違いに基づく論争でもあった。しかしまた、学問のやり方や歴史が異なることに端を発する、誤解に基づく不毛な論争でもあった。イデオロギー闘争と誤解が大部分を占めるのであれば、建設的な意見はあまり望めない。事実、「社会生物学論争」の多くは、消耗するだけの水掛け論の応酬でもあった。

カテゴリ: カルチャー
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