クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

靖国にいるのは戦争の犠牲者か

執筆者:徳岡孝夫 2001年9月号
タグ: 日本 自衛隊 中国

 終戦後、日本人の序列意識がまだ強烈な頃(役人はいまも強烈だが)、世の中で最も偉いのは東大を出た人だった。それを教える東大教授は雲にそびえる峰で、まして東大総長は沖天に輝く知恵の星と見られていた。 南原繁という東大総長は、卒業式で大演説をした。教え子を世に送るにあたり、きみたちはこう生きよと言うならまだしも、日本の政治や外交のあるべき姿について演説した。新聞は、そのたび彼の高邁にして英明な言葉を逐一報じた。 その南原を指して、吉田茂首相は「曲学阿世の徒」と罵った。真理を曲げて世に阿る奴ばらだとコキ下ろしたのである。世間は吉田の言説より、東大総長が罵倒されたことに驚いた。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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