終戦後、日本人の序列意識がまだ強烈な頃(役人はいまも強烈だが)、世の中で最も偉いのは東大を出た人だった。それを教える東大教授は雲にそびえる峰で、まして東大総長は沖天に輝く知恵の星と見られていた。 南原繁という東大総長は、卒業式で大演説をした。教え子を世に送るにあたり、きみたちはこう生きよと言うならまだしも、日本の政治や外交のあるべき姿について演説した。新聞は、そのたび彼の高邁にして英明な言葉を逐一報じた。 その南原を指して、吉田茂首相は「曲学阿世の徒」と罵った。真理を曲げて世に阿る奴ばらだとコキ下ろしたのである。世間は吉田の言説より、東大総長が罵倒されたことに驚いた。
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