【ブックハンティング】 良質な経験主義が描き出す世界の近未来

執筆者:川本裕子 2003年10月号

『日はまた沈む』『来るべき黄金時代』などで知られる英国The Economist誌編集長ビル・エモット氏の最新作が、『20世紀の教訓から21世紀が見えてくる』(鈴木主税訳、草思社)である。題名が示すとおり、本著でエモット氏は、二十世紀の世界の経済社会の歴史を振り返り、二十一世紀のあり様に洞察を巡らす。極めて野心的、壮大なテーマに取り組んでいるが、予言者めいた断定や、世の中を風靡しようとするキャッチフレーズとは一切無縁だ。 政治、経済、社会、思想哲学の理論や分析ばかりでなく、映画や小説の知識も総動員されており、骨太かつ洗練された考察が展開されている。歴史に表れた物事の本質を簡潔に手際よく把握し、多面的な分析の中から大きな方向を浮かび上がらせる――英国ならではの良質な教養主義・経験主義が生んだ秀抜な歴史観が全編に満ちている。

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