頭上の電気がパッと消える。窓の外を見ると隣家も真っ暗。「あなた、停電よ」。 なぜか停電は人をウキウキさせる。雨戸を繰って朝の庭に初雪を見たような、ときめきを与える。断水では、そうはいかない。一九七七年にニューヨークで大停電があって、数百万人が明りもテレビもない夜を二晩ほど過した。十カ月後、同市の出生数に有意の増加が認められた。アメリカ人も、停電になると何だか急にヤル気が出るらしい。洞窟に住んでいた大昔が甦るのか? 私の世代は、停電ならイヤというほど知っている。心の底で、いつかきっとあの時代に戻るぞと覚悟している。停電でなくても、昔の日本の夜は真の闇だった。

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