衝突と流血のイラクを鳥瞰する

執筆者:池内恵 2004年6月号
エリア: 中東 北米

すでに国家再建への道筋はみえている。人質事件も米軍との戦闘も、すべて各勢力が自らの地歩を最大化する動きに過ぎない。 五人の無事解放という形で終わったイラクでの日本人人質事件は、一当事者として日本国民がイラク情勢を真剣に見つめる機会を与えた。しかし十日間の人質救出劇の間になされた報道や論評によって、日本のイラク情勢認識はどれほど深まったのだろうか。イラク政治の基本的な動きを規定する政治文化的なパターンや、現在の状況を規定している枠組みと政治日程、その中での対立軸と争点はどれだけ理解されたろうか。それらを踏まえた上で人質事件がどのような意味をもつかをとらえ、適切な対処を検討していく姿勢が必要だったはずだ。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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