「移民後進国」で起きたノルウェー連続テロ事件

執筆者:渡邊啓貴 2011年9月27日
エリア: ヨーロッパ
7月25日、オスロで犠牲者追悼のためバラを手に集まる人々 (C)AFP=時事
7月25日、オスロで犠牲者追悼のためバラを手に集まる人々 (C)AFP=時事

 7月22日、反移民極右思想の持ち主アンネシュ・ブレイビクがオスロ市街とウトヤ島で爆弾と銃撃によって合わせて77人を無差別大量殺戮したノルウェー連続テロ事件。捜査の手は、イギリスに伸びようとしている。  欧州警察機構(ユーロポール)は事件直後に、ノルウェー警察を支援するために数十人の係官を任命した。ブレイビクは2002年に欧州のイスラム化と戦う秘密結社を結成し、テロの計画を立て始めていたと伝えられた。銃を合法的に入手するために拳銃クラブに入会、必要な装備を購入するためにインターネット通販を駆使し、約20カ国に足を運んだことも明らかになっている。そうした中でドイツの国家民主党、オランダの自由党など他国の極右運動関係者と接触したことも確認されている。1518頁に及ぶマニフェスト(犯行声明)には多くの団体や人名への言及があった。  事件の真相究明のために捜査が国際化することが予測されていたが、ここにきてノルウェー警察当局は、共謀説が出ているイギリスの極右運動・反イスラム運動のリーダーに対する事情聴取に踏み切る可能性が強いと見られている。ブレイビクがマニフェストで触れていた聖堂騎士団や英国防衛連盟などの団体の名前が浮上している。イギリスの反イスラム・ブロガー、ポール・レイはブレイビクがマニフェストで言及し、ブレイビクに「教導」とあがめられていたことで「共謀」が疑われている。02年にロンドンで開催された聖堂騎士団の立ち上げにブレイビクは出席しており、そこでレイと会っている可能性は否定できない。またブレイビクはフェイスブックを通して英国防衛連盟の支持者600人との交流もあった。  しかし、ブレイビクが範としたヨーロッパ諸国の極右運動の反応は、一様にブレイビクに「冷淡」である。レイはブレイビクの主張に自分の思想や論述から啓発された部分があることを肯定しながらも、直接的な関係については何度も否定している。英国防衛連盟は「自分たちはこの殺戮を非難し、極右に対抗する反差別主義集団である」と、事件との関係を否定する。ヨーロッパ最大の極右運動フランスの国民戦線(FN)は、事件直後にブログでブレイビクを「西側の守護者」と擁護した党員の党員資格を停止した。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴(わたなべひろたか) 帝京大学法学部教授。東京外国語大学名誉教授。1954年生れ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程・パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校・ボルドー政治学院客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員教授、外交専門誌『外交』・仏語誌『Cahiers du Japon』編集委員長、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。最新刊に『アメリカとヨーロッパ-揺れる同盟の80年』(中公新書)がある。
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