クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

世界一の大捕り物

執筆者:徳岡孝夫 2011年5月12日

 電話が鳴って、大阪に住む古い友人からだった。声が上ずっている。 「昨日はオサマが殺されよった。世界最大の大捕り物が片付いた。きょうはタイガースが巨人戦で3連発や。何たる吉日ぞや」  人間トシを取ると物事を正しく把握できなくなる。国際問題もプロ野球も、衰えた脳の中で混然かつ一体になってしまうらしい。  私も彼の興奮に巻き込まれて立ち上がり、寝室の整理ダンス上に置いてある色紙を取って眺めた。 「トクオカに。早くよくなれ。ランディ・バース44」  26年前のことだ。広告会社でタイガースを担当していた姪が、バース(背番号44)に書かせた色紙である。神話のような甲子園。バース、掛布、岡田が3発連続バックスクリーンに叩き込んだあの奇跡としか思えない場面。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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