核サミットで日本は韓国に嵌められたのか

執筆者:春名幹男 2012年3月28日
エリア: アジア

 27日ソウルで終了した第2回核セキュリティ・サミット。実は、日本にとって最悪の首脳会議だったということが全く認識されていない。
まず、なぜソウル開催だったのか。
2年前の2010年4月ワシントンで第1回核サミットが開催された時、満座の夕食会の席で当時の鳩山由紀夫首相は日米首脳会談を行ない、大恥をかかされた。そもそも大恥という認識さえ日本側にはなかった。
その最終日、突然「次回開催は韓国」との発表があり、驚いた。韓国は1970年代当時の朴正煕大統領が秘密裏に核兵器開発を推進、暗殺された。今世紀に入ってからも秘密裏にレーザー濃縮実験を行ない、国際原子力機関(IAEA)で問題化した。そもそも韓国に核サミット開催の資格があるだろうか。
対照的に、日本は被爆国であり、すべての核施設でIAEAの査察を受けている模範国だ。
オバマ米政権がそんな韓国に第2回核サミットを開かせた理由は少なくとも3つある。
第1に、オバマ米大統領と李明博韓国大統領の個人的関係が極めて親密なこと。オバマ氏は米国出発直前に次期世銀総裁候補に韓国系米国人、金ダートマス大学総長推薦を発表するなど米韓関係緊密化の演出も念入りだ。
第2に、北朝鮮からの核拡散を阻止するため、韓国から明確なメッセージを送る狙いがあったこと。
第3にオバマ大統領は広島、長崎を訪問したくないため、日本開催を避けたかった。大統領選挙の年に広島、長崎を訪問できない事情は分かる。
それにしても、これほどまでに派手な外交舞台を韓国に奪われるのは極めて情けない。
G20首脳会議も2010年韓国に取られた。1回目のG20はブッシュ前政権時代ピッツバーグで開かれ、当時の麻生自公政権は次回会合の日本開催を呼び掛けたが、なしのつぶて。オバマ大統領は2010年11月、ソウルから日本に入り、横浜のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に臨んだ。
だが、今回は米国の大統領が日本に立ち寄らずに韓国を訪問した。クリントン元大統領は日本に立ち寄らずに中国を訪問し、Japan Passingと批判されたが、今回はそんな声さえ出ない。野田佳彦首相は、そそくさと訪韓して、内政が重要とばかり急いで帰国した。もちろん、北朝鮮のミサイル発射問題では日本の外交努力など表面には一切出なかった。
そして発表された核サミットの共同声明。核兵器への転用可能な高濃縮ウランやプルトニウムの「適切な管理、安全確保の重要性」を強調する項目が盛り込まれた。日本は非核兵器保有国で最大のプルトニウムを蓄積している。福島第1原発事故の際もプルトニウム管理が米政府内部で問題になった。共同声明のこの部分は明らかに日本を念頭に置いている。李大統領はサミット前、日経新聞との会見で「核兵器2万個をつくることができるプルトニウムと高濃縮ウランの削減での合意を期待している」と語っている。最終的にこうした具体性のある文言にはならなかったが、李大統領は日本に対してより強いプレッシャーをかけようとしていたのだ。韓国外交に冷静なインテリジェンスの目を向ける時が来た。

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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