クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

世界を丸ごと見せるグーグル・アースの衝撃

執筆者:徳岡孝夫 2007年5月号

 城の裏手、落ち葉が厚く積もって昼なお暗い木立ちの中に、使う者のない古井戸がある。雨の夜に敢えて近寄れば、鬼哭啾々なにごとかを訴える呻きが聞える。山本勘介が生きていた頃の話で、生ける者が語ると聞えるのは、城が成るや井戸に投じられた棟梁、大工らの亡霊の放つ呪いである。彼らは城内の迷路、抜け道の在処に通じるがため、ことごとく殺された。 現代の丸ビルは、東京駅丸ノ内口を出てすぐに、三十七階建ての威容を誇っている。その三十六階に、名のある和洋の料理店が何軒も入っている。丸ビルと言えば老人も間違いようがないから、よく同窓会に使われる。昼食時の行列が解消した後、夕食の客が押しかける前だから、店の方も都合がいい。

カテゴリ: IT・メディア
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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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