【異能異才列伝】(1)
「無人島ビジネス」に挑む飛騨高山の若き「瓦屋」3代目(中)

執筆者:フォーサイト編集部 2017年12月30日
エリア: 日本
本業は「瓦屋」なのに「無人島ビジネス」を展開する(クリックするとサイトに飛びます)

 

 本業の瓦屋以外に、面白いビジネスを何かやりたい、飛騨高山でできることをやりたい――。

 そんなことを試行錯誤しながら、ウェブのネットサーフィンをしていたら、たまたま面白そうなものを見つけました。「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」。大学? 何これ、と思いました。

 ホリエモンこと堀江貴文さんについては、実は当時のぼくはあまり知りませんでした。もちろん存在は知っていましたが、ITビジネスで成功したけど塀の中に行っちゃった人、というくらいの認識しかありませんでした。

 でも、とにかくその言動が世間を騒がせ、あれだけ注目を集めている人なのだから、堀江さんのところには絶対に面白い人が集まるな、と思ったんです。このHIUに加われば、他のメンバーとビジネスの話もできるし、もしかすると一緒に組んで何かできるんじゃないか、と。その時点ではまだ飛騨高山にこだわっていたので、高山でなにか面白いビジネスが生まれるぞ、とそんな希望を抱いていたのです。

ホリエモンとの出会い

 HIUの会費は、月1万円です。もし成果を感じられなかったらすぐにやめればいいし、月1万円の出費くらいはいいだろうと思いました。

 仕組みは、まず会員になると、「フェイスブック」の非公開グループに招待されます。その中にはさらに、たとえば事業投資とか様々な種類のイベントなど、いろんな分科会(グループ)が約30あって、会員はそれらのうちのどれかに所属します。そしてそれぞれが「何かしませんか」と投稿しあう。基本的にはそうやって会員同士が交流するための場です。

 堀江さん自身の投稿は、ごくたまにあります。「こういうビジネスが今あるけど誰かチャレンジしてみない?」とかですね。あと、会員の投稿の中で堀江さんが面白いと思ったものに対しては、コメントをつけてくれることもある。コメントをもらえると、みんなちょっとテンション上がっていますね。

 その他に、リアルなイベントもあります。いわゆるオフラインイベントですが、月2回、堀江さんも来る定例イベントがあります。これは堀江さんが毎回違うゲストと対談しているところを聞けます。その後、交流会が開かれますが、堀江さんも残って、みんなで飲んだりしています。でもみなさん、なかなか堀江さんには話しかけられないですね。

 会員は、現在は1900人ほど。もちろん30ほどのグループのどこに入っても、1人でいくつ入ってもかまわない。

 ぼくが入ったのは会員数が600人くらいの頃で、HIUがスタートしてから1年ちょっと経ったくらいだったと思います。

「アイデアとして間違ってる」

 入ってすぐ、オフラインの定例イベントに参加したとき、たまたま堀江さんが近くで飲んでいたんです。あ、こんなタイミングはないなと思って、「高山で今ビジネスを考えている」という話をするしかない、と。どうしようどうしようと20分くらいためらっていましたが、このタイミングで聞かなかったら絶対に後悔するなと思い、「ちょっと聞きたいんですけど」と、声をかけてみました。 

 
ホリエモンとの出会いが人生を大きく変えた(Youtubeより)

「堀江さん、高山でビジネスを考えています。土地が余っているし、温室栽培もこういうものが作れたりするんです」

 その時はオリーブ栽培を考えていたので、そう聞きました。

「そういうビジネスやろうと思うんですけど、どうでしょうか」

 すると堀江さんは「くそつまらん」と、すごく嫌そうな顔をしているんです。

「あのさぁ、みんななんか、後継ぐからとか、土地が余ってるからとか、そういうビジネスアイデア持ってくるけど、本当はそういうことじゃないんだよね」

 と、お話が始まりました。

「たとえばワインの産地は、そこに土地が余っていたからブドウ作り、ワイン作りを始めたわけじゃない。世界一おいしいワインが作りたいからその土地を探し出し、そこで作って一流になったから価値があるし、ストーリーがある。でも、結局きみの意見は、土地が余ってるから何かしたい、何か作ってみようと言ってるだけで、それはアイデアとして全然間違ってる」

 要するにつまらない、とこきおろされたわけです。もう撃沈ですよ。でもおっしゃることは正論で、「確かに」と思いました。でも、じゃあ何をどうすればいいのか。ますます悩みが深まりました。

人生が大きく変わった

 HIUでは、「フェイスブック」の日常での交流、月2回の定例イベントのほかに、年2回、夏と冬に合宿があります。堀江さんが1泊2日でスケジュールを明けて参加してくださるもので、おおまかな行き先こそ堀江さんが決めますが、あとの細かい段取りは全部会員の実行委員が決めていきます。

 ぼくは2016年5月に入会しましたが、その直後に、6月に夏の沖縄合宿をやりますよ、という告知がありました。実行委員の募集はちょうど締め切られたところだったんですが、「何か行動せなあかん」と思って、実行委員やります、と手を上げ、半ば強引に委員になりました。

 この、合宿の実行委員になったことで、ぼくの視点が全く変わり、人生は大きく変わりました。そのくらい大きな体験でした。

 合宿の実行委員は、大変だったけど面白い経験でした。計画を話し合う際にはみんな寝ずに取り組み、企画の詰め方やイベントの立ち上げ方など、いろんな才能に触れられる体験ができました。自分の中では、「うわ、コイツ凄い」「発想おもしれー」の連続でしたね。

 この実行委員の経験をきっかけに、ようやく自分の中で成長が始まったような感じがしました。ものの考え方やどういうものが面白いのかという感覚が、体験することで肌でわかってきたような感覚でした。

屋那覇島での強烈な体験

 沖縄の合宿は無事終わりかけていたとき、実行委員仲間で親しくなった友達が、「無人島もついでに行ってみようよ、せっかく沖縄に来たんだし」と言い出したんです。それを聞いて、ぼくも「一生に1回くらい、無人島行くのもいいかな。じゃあ行くよ」という軽いノリで、伊是名島(いぜなじま)の隣の無人島、屋那覇島(やなはじま)に行ったのです。沖縄本島の那覇から車で約2時間の運天港から、フェリーで約1時間の伊是名島へ。さらに渡し船に乗り換えて30分ほど、というアクセスです。

 そこで出会ったのが、「無人島貸し切りビジネス」の相方である大城福盛君でした。

 大城君はけっこう壮絶な人生を歩んでいました。東京で飲食店やDJをやって大成功していたんですが、東京という街が嫌になり、沖縄に移住してゼロから何かビジネスをやろうとしてたんです。ところが騙されて失敗し、ほとんど無一文になり、1年ほどの間ひたすらゴミ掃除を続けた。そのうち周囲の信頼を得るようになり、屋那覇島の地主さんと出会って、「島を好きに使っていいよ」と言われたので、無人島で泊まれますよ、という案内を始めていたんです。ぼくらはそのお客さんとして、島を訪れたんですね。

 ぼく自身は、それまでキャンプのようなアクティビティとかはそんなに好きじゃなかった。父は仕事一筋の人でしたから、子どもの頃にキャンプなどで遊んだことなどまったくなかった。

 だからぼくにとっては、屋那覇島の無人島体験が人生初のキャンプでもあったんですが、この強烈な体験で、よくよく感じたことがありました。

 ぼくもそうなのですが、今の社会の人たちって、ネットでググればなんとかなる、お金があればなんとかなると思っていますよね。でも無人島に行くと、魚を獲れる人がすごい、魚を捌ける人がすごい、火を熾(おこ)せる人がすごいとか、人生観がまるで180度変わるんです。こんな生き方ってなんてすごいんだろうって、自分の中が大きく変わっていくんですよ。

 最初は8人(内スタッフ2人)で1泊2日、過ごしました。その間はただひたすら、生きるために行動していました。たとえ木を拾ってくるということだけでも思い出になる。無人島にいたというだけで、いろいろな思い出が際限なく語れるくらい、すごく面白い体験でした。

 電気はもちろんないし、電波が届くところもほとんどないから携帯電話が使えないという場所で、仲間と一緒に過ごすと、より仲良くなる。火を囲み、無数の星を眺めるということも、なかなか体験できることではない。一生懸命魚を獲ったりテントを張ったりするような体験1つ1つに、すごい価値があるなと思ったんです。

 だったらこれを事業にして、いろんな人に体験してもらえれば価値観が変わるんじゃないか。儲かる儲からないではなく、これを体験したら絶対世の中面白くなるし、変わるなと強く思ったわけです。

 そこですぐに、「これを事業としてやってみようよ」と大城君に切り出すと、即座に「ぜひ」という反応でした。そこでもう1度、今度は改めて家族(妻と3人の子供)を連れて大城君に会いに行き、その時にじっくりといろんなことを話し、ビジネスをスタートすることになったのです。

「ヤンバルコビト」立ち上げ

 無人島貸し切りアドベンチャー体験の会社「株式会社ヤンバルコビト」を立ち上げたのは、2016年の8月31日です。もっともこの日に会社の登記はしましたが、屋那覇島では10月とか11月くらいですぐ冬になっちゃうので、本格的な活動開始は2017年になってからエンジン始動、という感じでした。

無人島では新たな価値観が生まれると語る森さん

 屋那覇島の広さは24万坪ほどで、ちょうど東京ディズニーシーくらいの広さになります。歩いて1周すると、2時間半くらいかかるでしょうか。

 島内は、ぼくらもまだすべては探索しきれていないのですが、かつて誰かが持ち込んで野生化したヤギが30頭ほど、それにウサギがいるということです。ただ、ハブはいないので、子供さんも安全に遊んでもらえる島です。

 屋那覇島は、個人の地主さんが8割所有していて、残りは村に所有権がある。一応、村にもこういう事業をやりますと確認したのですが、オーナーがOK出しているなら村としても文句言わないよ、ということでした。

 地主さんには、島を使わせてもらうたびに謝礼、という形で使用料を払わせてもらっています。こちらからはきちんと年額を取り決めた形で契約したいと申し出ているのですが、契約書を交わすと島を取られちゃうんじゃないか、というイメージが強いらしく、いくら言っても「おれから島を取るつもりか。貸すって言ってるんだからいいだろ進みませんでしたが、最近になってようやく納得してくださり、新年には契約をしてもらえる運びになりました。

無人島の楽しみ方は千差万別

 事業を始めた当初は、サバイバーみたいな人たちがどっと押し寄せるんじゃないかと思っていたんですが、実際には小さな子供さんがいる家族連れや高校の卒業旅行、あるいは会社仲間など、幅広い層の方々に来ていただいています。

 島へは、大城君がインストラクターとなって案内します。ただ無人島を貸すだけだと楽しめないし、危険も伴いますから、いろいろなコースを用意して、みなさんが楽しめるようにしています。もちろん、いざという時のために、10億円くらい出る保険とかにも入るなど、こちらが担保できる分の安全はしっかり確保しています。

 日帰りツアーもありますが、泊まりの時には、大城君も一緒に泊まります。でもほぼすべてのことをお客さまご自身でやっていただくので、彼はまあ何事もないように見守っているという感じで、自分でも魚を獲って遊んでいますよ(笑)

 たとえば、火熾し。道具があるので大城君が使い方を教えながらお客さまにやってもらうのですが、慣れない初心者の方がやると1時間から1時間半かかったりします。でも家族でいらした場合、火熾しだけやっていてもなかなか楽しめないですよね。そういう場合、なにをどこまで体験してもらうかについては、いろんなオプションを設けています。

 お客さまによっては、単に無人島にいるということだけを楽しみたい方もあれば、何から何まで体験したいという方もおられるので、そのあたりはお客さまにいろいろご要望を聞きながらの対応になります。現地でも、これは手伝いが必要だ、となったら大城君が手伝うなど、臨機応変にやっています。

クリエイティブ力が必要に

 ぼくが島に行けない時は、大城君から「こういうことがあったんだよ」と毎回報告を受けるのですが、毎回、笑えるようなハプニングが必ず1つはあって、それがとても面白いですね。

 結局、無人島って何もないところですから、何かを作り出そうというクリエイティブ力が働く。もちろん、失敗はあるんですが、それはそれで楽しい思い出になりますから。

 島の風向きは、朝と夜で変わります。これは知識のある人なら知っていますけど、テントの張り方をあえて教えないと、初めてのお客さまは、今こっちから風が吹いているからその方角に向けて強いテントの張り方になるわけです。ところが夜になると風が逆に吹き、テントがふっ飛ばされそうになってみんなで押さえる、といったことになる。

 でもこういう体験だけでも面白いし、自然はこうなっているんだということを肌で感じると、自然には勝てないけれど逆に面白いな、と思ったりします。そういうことをいろんな人が経験すると、世の中は絶対もっと面白くなる。

 先日、アメリカンフットボール部の高校生たちが来たのですが、写真を見ると、来た時と帰る時の顔つきが全然違うんですよ。「おれは生き残ったぜ!」みたいな感じになって、しかもお互いがすごく仲良くなって帰っていくのを見ると、この事業をやってやっぱりよかったな、と強く思いますね。

「無人島面白い」が価値観

 ぼくは、来てくれた人もぼくたちもみんながウィンウィンになればいい、と思っているんです。大城君ともよく話すのですが、この無人島では全然儲けるつもりはない。「ちょっと無人島行こうぜ」という感じで気軽に来てくれて、そこで人生観を変えるような経験をしてもらうというのが、ぼくの理想です。だから、今のところ採算はトントンといった感じですが、ちょっとマイナスでも続けていきたいな、というふうに思っています。

 今の世の中、手つかずって、どんどん少なくなっていくと思うんです。中でも無人島は正真正銘の手つかずで、何もないっていうところですよね。でも何もないというところには価値がないのかというと、たぶんそうじゃない。それは無人島体験をすればわかることだと思います。すごく楽しいね、仲間との思い出ができたね、一生の思い出になったね、お金じゃないね、ということが体験できる場所。

 でも、継続させるためには、やはり企業的にお金も必要。だから今は、収益の口を無人島以外で持ちたいな、と大城君と話をしています。まだ試行錯誤の最中ですが、沖縄で酵素ドリンクを作り始めています。沖縄の無農薬フルーツだけを使ったものです。

 だいたい今の酵素ドリンクは、熱を通すから酵素が死んじゃうんです。でもある方法を使うと、酵素を殺さずに済む。この酵素ドリンクは、ほんとに収益を考えて、ちゃんと稼げるものにしようと進めています。

 ぼく自身は、無人島は面白い人を集めたり、いろんな人とつながることで新しいビジネスが生まれたりとかのために使いたいな、と思っています。これはぼくの勝手な思い込みですけれど、無人島を面白いと思ってくれる人は、お金じゃない価値観を持ってる人だと思うんですね。逆に無人島ビジネスと聞いて、「儲かるの?」みたいなことを最初に聞いてくる人とは、価値観が合わないんじゃないかなと感じる。

 だから「無人島面白いね」と言ってくれる人とつながっていくツールとして、無人島はすごく面白いですし、それをいまフル活用させてもらっています。

 相方の大城君は、よくこんなことを言っています。「おれは砂場で砂売って、北極で氷売るような人になりたい」。無人島はまさにそういうところで、行った人しか価値はわからないけれど、絶対に価値はあるから、なんとしても続けていきたいと考えています。(つづく)

 

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執筆者プロフィール
フォーサイト編集部 フォーサイト編集部です。電子書籍元年とも言われるメディアの激変期に、ウェブメディアとしてスタートすることになりました。 ウェブの世界には、速報性、双方向性など、紙媒体とは違った可能性があり、技術革新とともにその可能性はさらに広がっていくでしょう。 会員の皆様のご意見をお聞きし、お力をお借りしながら、新しいメディアの形を模索していきたいと考えております。 ご意見・ご要望は「お問い合わせフォーム」や編集部ブログ、Twitterなどで常に受け付けております。 お気軽に声をお聞かせください。よろしくお願いいたします。
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