不安と不透明感が色濃く漂った欧州

執筆者:国末憲人 2020年9月10日
カテゴリ: 政治
エリア: ヨーロッパ
 

 月刊の国際政治経済情報誌として1990年3月に誕生した『フォーサイト』は2010年9月にWEB版として生まれ変わり、この9月で10周年を迎えました。

 これを記念し、月刊誌の時代から『フォーサイト』にて各国・地域・テーマの最先端の動きを分析し続けてきた常連筆者10名の方々に、この10年の情勢の変化を簡潔にまとめていただきました。題して「フォーサイトで辿る変遷10年」。平日正午に順次アップロードしていきます(筆者名で50音順)。

 第4回目は【欧州】国末憲人さんです。

 

 「ベルリンの壁」崩壊と冷戦終結を歴史の区切りとすると、その後の30年で世界はどう推移したか。最初の10年は希望に満ち、9.11テロからの10年ほどは暗雲が漂い、この10年は心配事ばかり――。

 ステレオタイプの見方で振り返ると、ざっとこんな感じだろう。欧州のこの10年もやはり「不安と不透明感が色濃く漂った時期」と受け止める人が多いに違いない。

 2010年代の欧州は、その前からのリーマン・ショックの影響とギリシャの債務危機で幕を開けた。2014年のロシアによるクリミア半島併合とウクライナ東部への侵攻で国際秩序は大きく揺らぎ、2015年には難民危機が本格化した。この年から翌年にかけては、フランスやベルギーで大規模テロも相次ぎ、欧州が長年培った移動の自由や人権擁護の原則に疑問が投げかけられた。

 それぞれの課題は解決されることなく積み重なり、遠藤乾・北海道大学公共政策大学院長の言葉を借りると「複合危機」から「累積危機」へと発展した。10年間の後半には、英国の欧州連合(EU)離脱問題がひときわ大きな騒動となって混乱に拍車をかけた。今年1月の離脱実現で一区切りかと思いきや、その後コロナ禍が欧州を席巻した。

 2000年代を通じてバルカン半島やウクライナ、グルジア(現ジョージア)でEUが支援した民主化は、その後の10年で定着したとも言い難い。逆に、ロシアやトルコのように権威主義に逆戻りした隣国を抱えるに至った。米トランプ政権が欧州の足をさらに引っ張り、米欧関係の要である北大西洋条約機構(NATO)はその存在意義を問われるようになった。

 それ以上に問題なのは、これらの諸危機に乗じて、右翼や左翼のポピュリズムが各国の社会に浸透したことである。こうした勢力は、時にロシアのプーチン政権や米国の急進派などと連携し、内部から欧州を蝕んだ。ハンガリーやポーランドのように、権威主義国家としての統治モデルをつくるに至った国もある。

 もっとも、欧州のすべてが灰色に塗り固められたわけではない。かつて内戦で大きな被害を受けたクロアチアが、2013年にEU加盟を果たした。他にも加盟を希望する国は少なくない。加盟国内の世論調査で、EU支持はかつてなく高い。コロナ禍に対する復興基金の設立を巡っても、EUは最終的に合意に達した。欧州の結束が大きく揺らぐ状況にはない。

 今年の課題は何よりコロナ被害の収束だが、その後も結束を維持し、アフリカや中東、旧ソ連諸国などとの結びつきを強められるか。焦ることなく、緩いながらも着実な関係を構築できるか。

 次の10年の欧州の行方は、その成否にかかっている。それは、欧州が米国にも中国にも頼らず、世界の1つの極として自立していくうえでも、決め手となるだろう。

 

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執筆者プロフィール
国末憲人 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長を経て、現在は朝日新聞ヨーロッパ総局長。著書に『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『イラク戦争の深淵』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)など多数。新著に『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)がある。
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