「9.11から20年」を伝える各国論壇の深層心理(2021年9・10月ー2)

9.11がもたらした復讐心の抑制は、今後もアメリカ指導者の課題であり続ける ⓒEPA=時事
2001年9月に「われわれはみな、アメリカ人である」と宣言した『ルモンド』がいま、アメリカの「傲慢と無知の軌跡」を指摘する。『人民日報』もアメリカの挫折を大々的に特集した。これら批判的(あるいは攻撃的)議論の根底には、欧州における「戦略的自立」の希求や、「アメリカによる動乱輸出」で現代史を読み替える中国の欲望など、各国地域の深層心理も垣間見える。

2.「戦略的自立」へと向かう欧州

■ハネムーンの終わり?

 2021年8月から9月にかけて、米欧関係は摩擦や相互不信を増大させていった。十分な事前調整なくカブールからの米軍撤兵を急いだバイデン政権に対して、多大な犠牲を伴いつつアフガニスタン派兵と米軍との協力を続けてきた欧州諸国からは不満の声があがった。

 そもそもフランスは、2001年のアメリカにおける同時多発テロの直後に、もっとも迅速にアメリカへの連帯の意思を示していた。アフガニスタン戦争と、その後のアフガニスタンの安定化は、アメリカ単独で行ったのではなく、国連安保理決議に基づくNATO(北大西洋条約機構)の国際治安支援部隊(ISAF)として行ったものであった。

 それゆえに、アメリカの単独行動主義的な振る舞いに、欧州の同盟諸国は複雑な心境であった。また米軍撤退が想定外の混乱をもたらしたことで、同盟国アメリカに対する信頼が大きく損なわれる結果となり、欧州の自立の必要性という認識に帰結している。こうした一連の出来事が「米国第一主義」を掲げるドナルド・トランプ前大統領ではなく、同盟国との絆を修復することを公約にしてきたバイデン大統領の下で行われたことは、大きな失望であった。

 そのような認識は、欧州側ばかりか、アメリカ国内からも示されている。たとえば、外交問題評議会会長のリチャード・ハースは、『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄せた論考、「米国第一主義の時代 ーワシントンの誤った対外政策コンセンサス」のなかで、従来の国際主義的なアメリカ外交のコンセンサスが大きく後退して、自国第一主義的で内向きの対外姿勢が、新しいコンセンサスになりつつあることを批判的に論じている[Richard Haass, “The Age of America First: Washington’s Flawed New Foreign Policy Consensus(米国第一主義の時代:ワシントンの誤った対外政策コンセンサス)”, Foreign Affairs, November/December 2021]。それは、オバマ政権から、トランプ政権、そしてバイデン政権へと受け継がれてきたものでもある。ハースは、そのような「新しいコンセンサス」を乗り越えて、再びアメリカ外交が国際主義を復活させる重要性を説いている。

 他方で、フェデリカ・モゲリーニ前欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表のブレーンとして、2016年のEUの「グローバル・ストラテジー」文書の策定に中心的に関与した外交専門家のナタリー・トッチは、アフガニスタンの混乱と、AUKUSをめぐる米仏間の摩擦によって、トランプ政権後のバイデン新大統領のもとでの米欧関係の「ハネムーン」期間が終わりつつあると論評している[Nathalie Tocci, “After the honeymoon, how to make the EU-US relationship work (ハネムーン後、EUとアメリカの関係をどう維持するか)”, Politico, October 6, 2021]。すなわち、早急な米軍撤退が引き金となったカブール陥落や、AUKUSをめぐる混乱などによって、欧州諸国においては、トランプ政権とバイデン政権を連続するものとしてとらえて、アメリカからのよりいっそうの「戦略的自立」を求める声が大きくなっている。たとえば、スペイン元外相のアナ・パラシオは、カブール陥落が米欧関係への不安を高める結果となり、よりいっそう欧州が「戦略的自立」を求めるようになると想定する[Ana Palacio, “European Strategic Autonomy After Afghanistan(アフガン以後の欧州の戦略的自立)”, Project Syndicate, September 14, 2021]。来年6月にはNATOが「新戦略概念」を公表する見通しであるが、欧州の「戦略的自立」を強化しながらNATOの防衛協力を強化することは可能である。欧州側の防衛面での自助努力を喚起する声は、現在のヨーロッパでは幅広く聞かれるものだ。

■「戦略的自立」と国防費支出

 EUの外務・安全保障政策上級代表のジョセップ・ボレルは、『ニューヨーク・タイムズ』紙への寄稿で、アフガニスタンの混乱は、EUに対して今後よりいっそう自らの利益を守る能力の強化を求めていると説く[Josep Borrell Fontelles, “Europe, Afghanistan Is Your Wake-Up Call(ヨーロッパよ、アフガニスタンは君たちへのウェークアップ・コールだ)”, The New York Times, September 1, 2021]。20年前の同時多発テロの後には、NATOの第5条の集団的自衛権が初めて発動された。また、アフガニスタンの安定化と復興のために、欧州諸国は多大な貢献をし、犠牲を払ってきた。にもかかわらず米軍撤退の方針とそのスピードはすべてワシントンDCで決定されている。ボレルは、2022年に発表予定の新しい「欧州戦略指針」の策定作業を前提として、今後は米欧間でより緊密に戦略的文化を共有する必要を論じ、「アフガニスタンはヨーロッパに向けてのウェイクアップ・コール」であると位置づけている。

 同様に、ドイツの国防相を務めるアンネグレート・クランプ=カレンバウアーもまた、欧州諸国がより結束した政治的意志を持つことで、EUが真の意味でのアメリカの戦略的パートナーになると説いている[Annegret Kramp-Karrenbauer, “Germany’s defense minister: Only political will can protect Europe(ドイツの国防大臣:政治的意思だけが欧州を守ることができる) ”, Atlantic Council, September 3, 2021]。ヨーロッパの問題は、アメリカの軍事的プレゼンスなしでは、アフガニスタンに欧州の兵力を駐留させられないことだ。クランプ=カレンバウアーは、その背景をEUの軍事力の欠如に求めるのではなく、十分な政治的意志の欠如に求めている。ただし実際には、NATOのなかでアメリカ一国の国防費支出が全体の7割を占めていることに示されるように、政治的意志よりもまずはEUが十分な国防費を支出する必要がある。「政治的意志」だけでは、アメリカの戦略的パートナーにはなれないのだ。

 皮肉にも、AUKUSが発表された翌日の9月16日に、EUは独自のインド太平洋戦略文書「インド太平洋地域における協力に関するEUの戦略」を発表していた。AUKUSをめぐる混乱で完全に、このEUの画期的なインド太平洋戦略の発表はかき消される結果となった。はたして、EUがこの地域でどの程度重要な役割を担うことができるのだろうか。「戦略的自立」とは実際に、どのようなかたちで実現していくのであろうか。AUKUSについての注目の大きさと、EUのインド太平洋戦略についての報道の少なさは、その現実の軍事的な影響力の大きさに比例したものであるのかもしれない。

3.「9.11テロ」から20年が経過した

■「習近平の夢」と「アメリカのルネサンス」、9.11はどちらの出発点か

 AUKUSの発表の4日前にあたる年9月11日は、アメリカにおける同時多発テロ勃発の20周年であった。本来であれば、その20年の軌跡を振り返る機会になるはずであったが、1カ月ほど前のカブール陥落、そしてそれに続くタリバン政権の成立と、アフガニスタンからの自国民の退避のオペレーションで報道は埋め尽くされていた。アフガニスタンの安定化と復興を讃えるような論調はあまり見られず、むしろ現在の混乱や、不安な将来について、多くの論考が見られた。

 同時多発テロ20周年という視点では、ジョセフ・ナイ・ハーバード大学名誉教授が、それについての論考を寄せている[Joseph S. Nye, Jr. “What Difference Did 9/11 Make? (9.11は世界をどのように変えたのか)”, Project Syndicate, September 6, 2021]。ナイ教授は、1990年代には東アジア担当国防次官補としてクリントン政権のアジア政策を支え、また同時多発テロ以降も常に国際論壇を牽引する立場にあった。ナイによれば、あまりにも巨大な同時多発テロの衝撃は、アメリカ国民に巨大な心理的な傷を与え、世論に熱狂的な復讐心をもたらした。本来はそのような復讐心を抑制して、冷静にアメリカにとって必要な安全保障政策を形成するべきであった。依然として国際テロリズムの脅威が存在する中で、アメリカの指導者は世論の復讐心を制御することが求められる。

 また、定期的に『フォーリン・ポリシー』誌にコラムを掲載するハーバード大学のスティーブン・ウォルト教授は、「一世紀後、9.11はどのように記憶されているのか」と題する論考の中で、長い時間的な視野の中にこの20年を位置づけている[Stephen M. Walt, “How 9/11 Will Be Remembered a Century Later(一世紀後、9.11はどのように記憶されているのか)”, Foreign Policy, September 6, 2021]。この9.11テロを契機として、アフガニスタン戦争やイラク戦争でアメリカが国力を疲弊させる中で、中国が台頭を加速させて、「習近平の夢が実現する」可能性もある。他方で、むしろ反対に、アメリカが引き続き世界政治での巨大な影響力を保持して、「アメリカのルネサンス」が始まる契機になったと位置づけられるかもしれない。いずれにせよ、これからどのようなシナリオが作られていくか、まさに現在の戦略の選択が重要となるのだろう。

 ところで、2001年9月13日、『ルモンド』紙はアル・カーイダによるテロ攻撃を受けたアメリカへの連帯を示すために、「われわれはみな、アメリカ人である」と論じる社説を掲載した。2021年9月10日の「9/11 ーアメリカのための教訓」と題する『ルモンド』紙社説では、過去20年間、アメリカは傲慢さや無知に基づいた行動を繰り返してきて、アフガニスタン撤退を受けてそのような挫折の軌跡を回顧し、検証する必要を指摘している[Éditorial, “11-Septembre : des leçons pour l’Amérique (9.11:アメリカのための教訓)”, Le Monde, September 10, 2021]。同時多発テロ攻撃を受けたアメリカは、強い愛国心に駆られて、盲目的に政治指導者の決断に全てを委ねた。アメリカがあたかも救世主であるかのように、ネオコンのイデオローグは軍事介入をこれまで先導してきた。アメリカは「何度パンチを受けても戦うことを諦めないボクサー」のように、これからも立ち上がり、また戦いを続けるだろう。他方で、挫折を振り返ることで、アメリカは教訓を得られるはずだ。

 これらの一連の動きを見て、アメリカの政治学者のフランシス・フクヤマは、これからもアメリカがしっかりと民主主義的な価値を擁護していくことが重要だと主張する[Francis Fukuyama, “Francis Fukuyama on the end of American hegemony(フランシス・フクヤマ、アメリカの覇権の終焉を語る) ”, Economist, August 18, 2021]。フクヤマは、アフガニスタンからの米軍の撤退がアメリカの時代の終わりを意味するのではなく、むしろアメリカ国内での価値をめぐる政治的な分裂こそがアメリカを衰退させると説いている。したがって、中国の台頭はそのようなアメリカの民主主義的な価値にとっての脅威となり、台湾の民主主義を擁護できるかどうかが試金石となるだろう。

■『人民日報』による「20年間のアメリカ」特集

 中国の『人民日報』紙で、アフガニスタン戦争開始後の20年間のアメリカの軌跡について、3回にわたって特集を組み社説で論じている[「二十年阿富汗战争给美国的警示(1)~(3)(20年のアフガン戦争がアメリカに与えた警告)」『人民网』2021年8月26日~28日]。ここでは、アフガニスタンにおけるアメリカの政策の失敗を厳しく批判する論調となっており、それはまた現在のアメリカ外交を想起して、現在の行動が挫折に帰結することを強く示唆するものでもある。

 1回目の社説では、「覇権主義とパワー・ポリティクスでは人心を獲得できない」と題して、アメリカの挫折の原因が強圧的な覇権主義に基づいて、パワー・ポリティクスを実践したことにあると批判する[(1)「霸权主义和强权政治不得人心」2021年8月26日]。第2回は、「強引な『民主化』を推し進めても自滅するだけだ」と題して、アメリカの政策が、アフガニスタンの歴史や文化を無視して強引に民主化を進めようとしたことが、失敗を招いたと論じる[「强推“民主改造”只会自食恶果」2021年8月27日]。第3回は、「軍国主義は問題を大きくさせるだけだ」というタイトルで、「ベトナム・シンドローム」から「アフガニスタン・シンドローム」までの歴史を連続して論じ、世界最大の軍事力を用いて、世界を不安定化させていると批判する[「穷兵黩武只会使问题越来越多」2021年8月28日]。この社説によれば、1945年から2001年までに、世界153の地域で発生した248件の武力紛争のうちで、201件はアメリカが引き起こしたものである。いわば軍国主義国家アメリカは、「世界最大の動乱輸出国である」と糾弾する。このように、この3回にわたる社説は、アメリカ批判一色となっており、現在のアメリカの企みも挫折することになると示唆している。

 イギリスの歴史家E・H・カーはかつて、「現在と過去との対話」として歴史を論じた。9.11テロ20周年を記念する場合においても、それぞれの諸国は、それぞれの視点や経験をもとにして、それを語っている。言い換えれば、各国がどのように歴史を論じるかを見ることにより、その国家の国際情勢認識の深層心理や、さらにこれからの戦略的な方針が浮かび上がってくるかもしれない。 (続く)

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
API国際政治論壇レビュー(責任編集 細谷雄一研究主幹)
米中対立が熾烈化するなか、ポストコロナの世界秩序はどう展開していくのか。アメリカは何を考えているのか。中国は、どう動くのか。大きく変化する国際情勢の動向、なかでも刻々と変化する大国のパワーバランスについて、世界の論壇をフォローするアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)の研究員がブリーフィングします(編集長:細谷雄一 研究主幹 兼 慶應義塾大学法学部教授)。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)について:https://apinitiative.org/
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