
G20議長国として途上国・新興国のリーダーを標榜するとともに、先進国グループ入りを目指すインドが、宇宙開発を急ピッチで加速させている。8月下旬には月の南極付近に無人探査機を軟着陸させるという高難度なミッションに成功。9月2日には初の太陽観測衛星も打ち上げた。
インドは早ければ来年末にも旧ソ連や米国、中国に次ぐ有人宇宙飛行に挑戦する予定で、その先には金星探査船の打ち上げも計画している。一連の国家プロジェクトによって、月の資源探査や太陽コロナによる地球の磁場への影響などに関する研究を進め、衛星の受託打ち上げや衛星画像の販売といった宇宙ビジネスの振興を図る。その一方で、宇宙開発を通じて技術を世界にアピールする「国威発揚」と国民の求心力獲得という政治的な狙いも見えてきた。
世界で4カ国目の月面着陸
宇宙開発を担う政府機関であるインド宇宙研究機構(ISRO)が打ち上げた月探査船「チャンドラヤーン(サンスクリット語で月への乗り物という意味)3号」が8月23日、月の南極近くへの軟着陸に成功したというニュースは、多くのインド人を歓喜させた。2019年に打ち上げたチャンドラヤーン2号は、降下時の速度制御に失敗し月面に激突した。ロシアが8月11日に打ち上げた月探査船「ルナ25号」も降下制御に失敗し、4月には日本の宇宙ベンチャー企業「アイスペース」による月面着陸も失敗に終わっている。
同様に月面着陸を目指す日本のH2Aロケット47号機も、4回の延期を経て9月7日にようやく打ち上げが成功したばかりで、インドに先を越された格好だ。米国、旧ソ連、中国に続いて世界4カ国目の月面軟着陸を成功させたインドは、ついに「宇宙エリートクラブ」の門をたたいたことになる。
チャンドラヤーン3号から切り離された月着陸船「ヴィクラム」は着陸後、「プラギャーン(叡智)」と名付けた遠隔操縦の月面探査車を発進させた。重さ32キロと小型のプラギャーンは月面でレーザーを使用した探査を実施し、鉄やアルミニウム、カルシウム、シリコンそして硫黄などを検出。月面でのプラズマや月面で発生したと見られる月の「地震」も観測している。
今回のミッションの最大の目的は、月面に氷として存在する「水」を発見すること。月面に水があれば、将来の人間による月面長期滞在の可能性が高まるほか、酸素や燃料用の水素を生成することもでき、月面の調査・研究における新たな可能性につながる。チャンドラヤーンを打ち上げたISROでは今後、プラギャーンが採取した月面の土や鉱物などの解析を進める。
プラギャーンは12日間で月面を100メートル以上走行し、様々な実験や探査を行ったが、9月3日には月が「夜」に入る前に機体をスリープモードに切り替えた。次の「日の出」後の9月22日に再起動を試みる予定だが、太陽が当たらない月面の「夜」はマイナス170度前後まで温度が下がる過酷な条件のため、搭載した機器類が無事に再起動できるかは不透明だ。
ローコスト化で衛星受託打ち上げに強み
月着陸の余韻も冷めやらぬ9月2日、インドは初の太陽観測衛星「アディティヤL1」の打ち上げに成功した。……

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。