《米大統領選》出馬資格剝奪問題もあるものの……「アイオワ後」やはり「トランプ圧勝」が最有力

執筆者:前嶋和弘 2024年1月19日
エリア: 北米
選挙年1月の支持率でこれだけライバルを圧倒して指名候補争いで敗れた例は、現在の予備選制度が確立した1970年代半ばから一度もない[2024年1月16日、アメリカ・ニューハンプシャー州アトキンソン](C)AFP=時事
米大統領選の共和党指名争いでトランプが圧勝スタートを切った。前回大統領選は「盗まれた」ものであり、「トランプはまだ現職」だと信じる熱狂的支持者の多さを改めて示した格好だ。「アイオワとニューハンプシャーのいずれか、もしくは双方で勝たなければ、党指名候補にも大統領にもなれない」が予備選勝利の方程式(1976年以降、例外2回)。1月23日のニューハンプシャー州予備選では、新たに撤退したラマスワミの票が上積みされると考えられ、今回の勝利がトランプの指名獲得への大きな一歩だったのは間違いない。

 2024年米大統領選挙の共和党指名候補争いの皮切りとなるアイオワ州党員集会が日本時間の1月16日に終わった。結果は事前の予想通り、ドナルド・トランプ前大統領が圧勝した。

「影の予備選」の勝利者トランプ

 アイオワ党員集会の前に「影の予備選(シャドープライマリー)」は過去半年以上前から続いてきた。共和党側では複数の候補者が立候補したが、世論調査の支持率を争うこの戦いでマイク・ペンス前副大統領、クリス・クリスティ元ニュージャージー州知事ら主要候補の多くが脱落し、最後に残ったのは数人だけだ。世論調査の数字は献金額にも跳ね返る。「影の予備選」の終了段階で指名候補争いの大筋はみえる。

 つまり、実際の予備選段階は始まったばかりだが、共和党の指名候補争いは既に山場を迎えたといっても過言ではない。

「影の予備選」で圧倒的強さを見せたのがトランプ前大統領だった。

 分極化の時代であり、2020年選挙に不正があり、「バイデンが選挙を盗んだ」と信じ込んでいる共和党支持者は6割から7割程度いる。熱狂的な支持者にはトランプはまだ、「現職」であるといった思いがあるのだろう。「トランプ離れ」は全く起きておらず、カルト的な人気が続いている。実際、「影の予備選」では2位以下の候補との差はまるで現職大統領が再選を狙うような大差だった。

 そのため、いつもなら注目を集める共和党候補のテレビ討論会にもトランプは出演せず、アイオワ党員集会までに行われた5 回とも、勝ち目のない候補同士で激論を交わすというシラケ切ったイベントになった。討論会の裏でトランプは別の番組の単独インタビューを受け、取り巻きのような司会者を相手に好き勝手に放談するといったシュールな状況が繰り返された。

 選挙年の1月の段階でこれだけ支持率でライバルを圧倒的に引き離している人物が指名候補争いで敗れた例は、現在の予備選制度が確立した1970年代半ばから一度もない。

開票30分で勝利速報

「シャドー(影の予備選)」から「リアル」にようやく場所を移したアイオワ党員集会でも、トランプの得票率は過半数を超え、2位以下の候補に倍以上の差を付けた。事前の世論調査でもトランプの圧勝が予想されたが、実際にその通りだった。

 今回特に筆者も驚いたのが開票30分程度で3大ネットワークがトランプの勝利を速報したことだ。私は学部学生だった1988年からアメリカの大統領選挙予備選をずっと見続けてきたが、緒戦のアイオワ州党員集会やニューハンプシャー州予備選でこんなにも早い段階で「勝利確実」をメディアが打った記憶はない。それだけトランプは横綱相撲だった。

 今回のアイオワ州党員集会は極寒の中で行われたものの、同州の共和党支持者約75万人中の約11万人が票を投じた(投票率は約15%)。近年の数字と比べてみると、2016年の18万7000票に比べれば見劣りはするが、2012年の12万1000票、2008年の11万8000票とそんなに大きくは変わらない(20年、04年は共和党が現職なので比較対象外)。2000年は8万6000票だったのでそれよりは大きく上回っている。

 そもそも「トランプ圧勝」は世論調査から見えていて、しかも民主党側が非開催なので注目度はその分低い。そう考えると15%の投票率はそんなに悪い数字ではない。アイオワ州以外でも予備選段階各州の投票率は総じて低い。高くて3割強だが、10%台がざらだ。

 投票率が低いため、熱烈な支持層を獲得できる候補者に有利である。その意味でもアイオワ州はトランプの順当な勝利だったといえる。

 アイオワ党員集会で2位のフロリダ州のロン・デサンティス知事、3位のニッキー・ヘイリー元国連大使は、首の皮一枚残ったといった形だろう。デサンティスはアイオワ州での勝利に懸けていた。同州の共和党支持者にはキリスト教福音派が多く、フロリダ州でデサンティスが知事として進めた「妊娠6週目以降の中絶禁止」という実質的な妊娠中絶完全禁止の州法も福音派からの支持固めを狙った政策だった。

 ヘイリーは「影の予備選」の終盤で支持率を上げていたが、3位止まりだった。アイオワ州での結果を受けて、4位の投資家のビベック・ラマスワミはついに撤退表明となった。政策の方向性がトランプとほぼ同じであるため、ニューハンプシャー州予備選以降はラマスワミ分がトランプに上乗せとなり、トランプへの追い風がさらに大きくなる。

ヘイリー候補に残されたチャンス

 ただ、アイオワ州でのトランプの獲得代議員は20人だけであり、指名獲得ラインの1215人の1.6%に過ぎない。ほんの一握りだ。

 しかし、実際にはこの獲得代議員数以上の極めて大きな影響があるのがアイオワ州、そして次に行われるニューハンプシャー州での戦いである。

 それはなぜか。……

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
前嶋和弘(まえしまかずひろ) 上智大学教授 静岡県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。専門は現代アメリカ政治外交。アメリカ学会会長。主な著作は『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』(小学館、2022)、『アメリカ政治とメディア』(北樹出版、2011年)、『アメリカ政治』(共著、有斐閣、2023年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著、東信堂、2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著、東洋経済新報社、2019年)、Internet Election Campaigns in the United States, Japan, South Korea, and Taiwan (co-edited, Palgrave, 2017)など。
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