中国はトランプの戦略をどう受け止め、何を引き出そうとしているか
Foresight World Watcher's 5 Tips
ウクライナ停戦の行方が注目された8月15日の米露首脳会談は、ドナルド・トランプ米大統領から見れば不発だったと言えそうです。共同会見でウラジーミル・プーチン露大統領は、「危機の根本原因がすべて除去され、ロシアの正当な懸念がすべて考慮され」なければならないと従来の主張を繰り返しました。いわば大国同士の“ボス交”で解決しようというトランプ大統領の思惑は、ひとまず空振りに終わったようです。
ただ、第2次トランプ政権発足後、国際関係に大国主導で動く部分が増えているのも多くの識者が指摘するところ。この米露首脳会談を国際社会の力学で捉え直せば、両国の関係が安定化へ向かうきっかけにもなりえました。その米露接近を強く警戒したのが、中国です。
中国の習近平国家主席は米露首脳会談に先立つ8月8日、プーチン大統領と電話協議を行い、中露の結束を確認したと伝えられます。米国との競争的対立関係を優位に進めたい中国は、ロシアとの友好関係を重要な外交的“梃子(テコ)”にしていますが、この構図が壊れることを懸念したと考えられます。
先月の王毅・中国共産党政治局員兼外相とマルコ・ルビオ米国務長官の会談あたりから、一部のメディアには“米中は融和に向かう”との指摘も散見されます。しかし、中国は米国との競争的対立関係を、もっと長期戦の構えで進めていると見るべきでしょう。米中は11月10日まで関税停止の再延長で合意し、関税戦争では中国優位との見方が広がりつつありますが、中国指導部はこの合意を「米中関係を再構築する長い過程の第一歩」に過ぎないと見ており、米国が次の争点を持ち出してくることを当然視しているとの論考が米「フォーリン・アフェアーズ」誌に掲載されています。
ただし一方、長期的な米中対立の過程では、各局面で両国間に“暫定ディール”が結ばれる可能性も想定できます。中国政府は9月3日に北京で行う「抗日戦争勝利80年」記念パレードにトランプ氏を招待しているとの報道があります。ここにはプーチン氏も参加する見通しで、もしトランプ氏が訪中すれば、まさに米中露の“3大国”が反日記念日に揃い踏みする格好です。
こうした大国外交の波を日本はどう乗り越えて行くのか。トランプ大統領の訪中も年内実現の公算が高く、日本外交にとっては難しい舵取りを余儀なくされる秋になりそうです。
フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事5本、皆様もよろしければご一緒に。
China Can Help Trump and Putin End the War in Ukraine【Wang Huiyao/Foreign Policy/8月13日付】
「モスクワとキーウは、戦争を終結させる方法について大きく隔たったままだ。現地では劇的な変化はほとんどなく、多大な死傷者を出しているにもかかわらず、両陣営とも主要な要求について妥協する姿勢を示していない」
「しかし、表向きの姿勢の裏では異なる現実が形作られつつある。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、適切な条件のもとで、ロシアとの解決に前向きな姿勢を示している。一方、プーチン政権は、バシリー・ネベンジア国連大使の発言に見られるように、国連主導の和平枠組みを検討する意思があることを伝えている。このような状況において、双方のレッドラインを尊重した解決策を交渉することは、困難ではあるが不可能ではない」
「中国は、この膠着状態を打破するうえで独自の立場にある。北京は、ウクライナ、ロシア、米国、欧州が一堂に会する首脳会議を開催し、これらすべての国の首脳が直接顔を合わせる場を設けることができる。目標は、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国とウクライナ、欧州連合(EU)の代表で構成される正式な7カ国協議の枠組みを作ることだ」
ウクライナ侵攻をめぐってアラスカで行なわれた米露首脳会談が始まる前の8月13日付で、米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌サイトに『中国はトランプとプーチンがウクライナでの戦争を終結させるのを助けられる』を寄せたのは、中国・国際化センター(全球化智库)の創設者兼会長である王輝耀。
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