「今週のトランプ」ラウンドアップ
「今週のトランプ」ラウンドアップ (26)

トランプ大統領の発言とアクション(9月4日~12日):ベッセント氏が強烈寄稿、FRBは新型コロナウイルスを作った研究室のようなもの?

執筆者:安田佐和子 2025年9月13日
エリア: 北米
ベッセント財務長官はFRBの根幹的な見直しに向けて論陣を張り始めている(C)EPA=時事
トランプ大統領と政権キーパーソンから飛び出した1週間分の発言を、ストリート・インサイツ代表取締役・安田佐和子氏がマーケットへの影響を中心に詳細解説。▼雇用統計(NFP)、リーマン・ショック後で最大割合の下方修正▼「FRBは自らの手で中央銀行の独立性を脅かしている」▼次期FRB議長「候補」に残っている3人▼日米財務相が共同声明、米国は対ロシアの二次関税でG7諸国に協力要請も

 

雇用統計(NFP)、リーマン・ショック後で最大割合の下方修正

「Too Late(遅過ぎ)」と言えば、ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長のニックネームだ。ドナルド・トランプ大統領は1月の就任時から9月11日まで、少なくとも58回こう呼んだ。パウエル議長やFRBが利下げに急がない姿勢を揶揄している。

 当初はトランプ氏の「口撃」を受けるパウエル氏に同情的だった市場関係者の間で、変化が起きている。米労働市場の減速が鮮明となっているためだ。

 8月の雇用統計・非農業部門就労者(NFP)は前月比2.2万人増と小幅な増加にとどまった上、過去2カ月分の修正では、6月分が1.3万人減と、2020年12月以来のマイナスに転じた。雇用統計は、米労働統計局(BLS)が対象月の12日を挟むサンプル週の終了から3週目の金曜日(概して翌月第1金曜日)に速報値を発表、その後、修正される場合がある。6月分は速報値で14.7万人増だったところ、1.3万人減と劇的に下方修正された結果、市場に衝撃を与えたのは言うまでもない【チャート1】。

【チャート1:米雇用統計・NFPの増減と失業率の推移】

 BLSは、毎年3月時点の雇用統計・NFPのデータを、州の失業保険税の記録に基づく正確性の高い「四半期雇用・賃金調査(QCEW)」と照合して、サンプル調査と実数データのギャップを埋める補正に必要な基準(ベンチマーク)の改定を行う。夏に季節調整前の速報値が、翌年2月に季節調整済みの確報値が発表される。

 今年は9月9日に雇用統計・NFPの年次基準改定・速報値が発表された結果【チャート2】、2024年4月から2025年3月までのNFPの増加幅は、91.1万人の下方修正となった【チャート3】。リーマン・ショックの影響が残る2009年以来、下方修正の割合としては最大を記録。これまでの雇用の増加幅は179万人増だったところ87.9万人増と概ね半減し、月平均の雇用の増加幅も改定前の14.9万人増→7.3万人増へ縮小した。労働市場が冷え込みつつある実態が浮き彫りとなったと同時に、同期間の雇用が過剰に見積もられていた事実も明白となった。

【チャート2:NFPの年次基準改定、速報値の結果】
【チャート3:2025年3月まで1年間の雇用の増加幅】

 なお、9月8日付のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、トランプ政権はBLSに批判的な報告書を提出する方針と報道、9月10日には労働省の監察総監室が①消費者物価指数と生産者物価指数、②雇用統計――などを重点的にデータの収集、報告、修正を調査する明らかにした

「FRBは自らの手で中央銀行の独立性を脅かしている」

 雇用統計の年次基準改定を、スコット・ベッセント財務長官が見逃すはずはなかった。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
安田佐和子(やすださわこ) ストリート・インサイツ代表取締役、経済アナリスト 世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事するかたわら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの上級主任/研究員を経て、株式会社ストリート・インサイツを設立。その他、トレーダムにて為替アンバサダー、計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員、日本貴金属マーケット協会のフェローを務める。
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