関税より“NO KINGS!”
第二次トランプ政権を日本から見れば、強権的な関税政策による自由貿易秩序の破壊に注目が集まる。WTO(世界貿易機関)秩序は、米国が覇権国となる過程で喧伝した「自由貿易主義」に応じ、世界が協調し構築してきたものだ。トランプ関税はそれを一撃で葬り去った暴挙である。だが、今のところ、米国内の消費者物価をさほどに押し上げてはいないため、圧倒的にメキシコ産が多いトマトを大量仕入れするイタリア料理店を除き、内向きの合衆国市民はさして関心を持たないようである。
米国内でそれ以上に懸念されているのは、「権力分立=自由主義」の否定である。
大統領府=連邦政府に対し一定の独立性・中立性を保つべきだとされてきたFRB(連邦準備制度理事会)のリサ・クック理事に対する解任命令、民主党の地盤であるワシントンD.C.やロサンゼルス市でのデモを理由とした州兵派遣の大統領令、コロンビア大やハーバード大など名門私大に対する補助金打ち切り等に通底するのは、独立機関に対する異例の政治圧力である。これに対し、デモが掲げたプラカードの “NO KINGS”とは、トランプ政権が権力分立(自由主義)を破壊しつつあることへの抗議である。
来年建国250周年を迎える米国の独立戦争が英国王による恣意的課税に反抗して起きたことを思い起こすと、なかなかに含蓄のあるスローガンと感じ入ったが、最近の映画さながら南北戦争に次いで二度目のCivil War(内戦)勃発を想起させないでもない。
さて、関税を含む前述の大統領令等の措置は既に米国で提訴されているが、米国の自由主義最後の砦となるはずの9名の連邦最高裁判事の構成は、うち6名が(第1次トランプ政権において任命された3名を含む)共和党政権下で任命された保守派、3名が民主党政権下で任命されたリベラル派であるため、保守対リベラルは6対3で、一般にはトランプ優位とされる。
特に米国で行政に関わる訴訟を提起する場合、最終的にはこの連邦最高裁の構成を考慮して紛争解決の落としどころを検討する必要があると言える。
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