再び動き出したモザンビークの天然ガス開発――ホルムズ海峡のリスク回避に地理的利点

執筆者:高橋雅英 2025年11月21日
エリア: アフリカ
事業再開への最大の難題は治安維持[カーボ・デルガード州の「モザンビークLNG」事業を警備するルワンダ軍=2022年9月30日](C)AFP=時事
モザンビークのLNG開発事業はインド洋への直接アクセスが可能な一方、イスラーム過激派の攻撃を受け2021年に中断を余儀なくされた。ここに状況変化が生まれている。10月末、事業者側は「不可抗力宣言」の解除を発表。再開に向かう背景には脱ロシア産エネルギーの潮流、中東情勢緊迫化によるホルムズ海峡封鎖リスク、そして米トランプ政権の後押しがある。日本も主要な出資国・輸出先に名を連ねる事業の環境を再点検する。

 アフリカ南東部モザンビークでは、大規模な天然ガス開発が進められている。しかしガス生産地のカーボ・デルガード州では、2017年にイスラーム過激派の活動が顕在化して以降、治安状況の悪化が続いている。2021年3月には過激派が、JOGMECや三井物産など日本企業も参加する液化天然ガス(LNG)事業サイトへの進攻を試み、事業を中断に追い込んだ。その後、4年半を経た現在も過激派は勢力を維持している。

 一方、2025年1月の米国のトランプ政権発足を契機に、モザンビークのLNG事業の再開に向けた動きが加速している。10月末には、事業者側が同国政府に対して不可抗力宣言の解除を発表した。これによりプロジェクトの再開が現実的に視野に入った。日本はモザンビーク産LNGの輸入拡大を予定していることから、事態の行方が注目される。

 本稿では、まずモザンビークでイスラーム過激派が台頭した背景を整理し、次に各国がLNG事業の再開を急ぐ理由について考察する。そして、日本のLNG調達政策の行方を展望する。

新たなガス生産地として注目される北部カーボ・デルガード州

 カーボ・デルガード州はモザンビーク北部に位置し、タンザニアと国境を接している。モザンビーク全体ではキリスト教徒が多数派であり、イスラーム教徒は約19%にとどまるが、同州では人口約230万人のうち半数以上(約58%)をイスラーム教徒が占めている。経済的には、他州に比べ開発が遅れ、貧困が深刻な地域である。

 一方、2010年に州沖合で大規模な天然ガス埋蔵量が確認されて以来、カーボ・デルガード州は新たなガス生産地として注目を集めてきた。ガス輸出国フォーラム(GECF)の統計によると、天然ガス埋蔵量は2023年時点で約650BCM(BCMは10億立方メートル)と推定され、可採年数(R/P比)は約73年に達することから、モザンビークは将来的に有望な産ガス国となる潜在力を備えている。

 カーボ・デルガード州ではこれまでに4つのLNGプロジェクトが展開している。現在稼働中なのは、ロブマ海盆の鉱区エリア4に位置し、イタリアのエニ社が運営する「コーラル・サウスFLNG(浮体式LNG生産施設)」事業である。同事業は年産340万トンのLNG生産能力を有し、2022年11月に輸出を開始した。 

 この他、2019年に最終投資決定(FID)済みの鉱区エリア1の「モザンビークLNG」事業(オペレーター:フランスのトタルエナジーズ社)、2025年10月2日にFIDが下された鉱区エリア4の「コーラル・ノースFLNG」事業(オペレーター:イタリアのエニ社)、そして2026年中にFIDが見込まれる「ロブマLNG」事業(オペレーター:米国のエクソンモービル社)が計画されている。これら4事業のLNG生産能力を合計すると、年間約3500万トンに達する見通しである。

【図1:カーボ・デルガード州とガス田の位置】
出所:筆者作成

「イスラーム国」勢力として活動する過激派

 モザンビークのLNG事業の進展を妨げているのは、イスラーム過激派の存在である。カーボ・デルガード州で過激派が台頭した背景には

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執筆者プロフィール
高橋雅英(たかはしまさひで) 中東調査会主任研究員 青山学院大学国際政治経済学研究科国際経済学専攻修士課程修了。専門は、中東・北アフリカ地域研究やエネルギー経済学、フランスの中東政策。外務省国際情報統括官組織専門分析員、国際協力機構(JICA)安全管理部専門嘱託を経て、2020年より中東調査会で勤務。2023年9月から2024年9月までアラブ首長国連邦(UAE)に駐在し、パリ・ソルボンヌ大学アブダビ校に所属。主な著作に、「UAE のクリーンエネルギー政策と天然ガス産業」(『中東研究』第551号、2024年)など。
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