「引き金を引けば、ミサイルが飛んでくる状況」
それは日曜の未明という異例の緊急会見だった。
小泉「今回のレーダー照射は航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為。このような事案が発生したことは極めて遺憾であり、中国側には強く抗議し、再発防止を厳重に申し入れました」(12月7日・防衛省)
午前2時過ぎ、小泉進次郎防衛大臣は、中国軍機が航空自衛隊のF15戦闘機に対して2回にわたってレーダー照射を行ったことを明らかにして中国軍の対応を非難した。この2回のレーダー照射のうち2度目は6日の午後18時37分ごろから19時8分ごろまでおよそ30分にわたって断続的に行われた。
レーダー照射には対象物との距離を測るため広範囲の角度でレーダーを照射する「探索」とミサイルなどを発射のため焦点を絞る「火器管制」の2種類があるが、防衛省関係者は、特に中国軍が行った2回目の30分にわたる断続的な照射は「もう引き金を引けば、ミサイルが飛んでくる状況」として、中国側が意図的にF15に照準を定め威嚇したものと指摘している。
今回、防衛省の動きは速かった。中国軍の航空機からレーダー照射を受けたと発表したのは初めてだ。そして日曜の未明に臨時会見を開いたのも異例のことだ。先の防衛省関係者も「北朝鮮のミサイル発射や自然災害の場合を別にすれば、未明の会見は記憶にない」と語っている。
小泉の“勇み足”を後押しする自民党内の強硬論
また、これは裏話だが、小泉の会見には防衛省の記者クラブに所属する複数のメディアの記者やテレビカメラが間に合わなかった。いわゆる「特落ち」だ。通常、防衛省・自衛隊の広報は周到に各メディアと連絡を取っているのだが、今回の会見ではそのゆとりがなかったことを窺わせる。一種の“ハプニング”と見て良いだろう。未明の会見は大臣である小泉が主導して行ったものと見られている。
元自衛隊幹部は「小泉さんは“自分の使命は速やかに情報を発信すること”だと考えている。中国の威嚇行為は事の性質上、重大であるため速やかに会見すると小泉さんが判断したらしい。躊躇はなかったようだ」と語る。
これまで防衛省は、この種の案件については安全保障の機微に触れる面もあることから扱いが慎重だった。官邸とも綿密に擦り合わせて対応を決めるのが従来のスタンダードだ。防衛大臣経験者の1人は「公表を見送ることも一つの考えだった」と語り、小泉の対応が“勇み足”だった可能性を示唆している。
しかし、こうした外野の声をよそに、小泉は「公表するべき材料が揃っているのだから速やかに発表するのが筋」と周囲に語るなど意気軒昂だ。実際、その後もレーダー照射に関連する情報発信を積極的に進めている。
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