ごく簡単な英語だが「ボート・ピープル」を御記憶だろうか。それは1975年4月、北ベトナム軍が明日にはベトナム共和国の首都サイゴン(今のホーチミン)を攻め落とそうかというとき、あり合わせの小舟に身を託して南シナ海に逃げたべトナム人のことである。
国家が滅んで地図上から消える瞬間、国民の間には大騒動が起きる。親戚知人を訪ね、一緒に国外へ逃げないかと誘う人がいる。とにかく自分だけが何らかのコネを頼って外国へ逃げようと算段する人もいる。国外での連絡先を書いた紙をドアに貼っておく等々。
私は外国人記者の特権を利用して米軍ヘリで南シナ海上の米第7艦隊旗艦に移った。途中で眼下に見る海には、小舟が無数に浮かび、それがすべてボート・ピープルを満載し、沖へ沖へと逃げていた。

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