モスクワで暮らす筆者にとって、楽しみはロシア人から最新のアネクドートを収集すること。ソ連解体後、傑作は減ったものの、小話はロシア社会を映す鏡でもある。 ロシア文化の結晶と言うべきアネクドートは、ギリシャ語の「アネクドトス(地下出版)」から来ており、帝政時代からロシアの伝統だった。したたかなロシアの民衆は、歴史の動乱を横目に仲間内のアネクドートで憂さを晴らし、事態を諦観してきた。 アネクドートが異常に発達したソ連時代、民衆は社会主義に盲従のそぶりを示す一方、裏では小話で痛烈に批判、冷笑しており、ソ連解体の原動力になったと言っても言いすぎではない。

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