3月に行うおひなまつりで小川ハルコさん(昭和5年生まれ)の思い出の味を再現しようと聞き書きをしていたときだった。ハルコさんは、娘さんが子供の頃に桃の節句のお祝いで作ってあげたというちらし寿司の他に、自分が大好きでよく作ったという「しらや」(白和えのこと)の作り方を教えてくれた。そこで私は、しらやの作り方は母親に教えてもらったのかと尋ねてみたのだった。すると、ハルコさんの口からは意外な返事が返ってきた。
「教えてもらわない。子供の頃はしらやは食べてたよ。母親が作ってくれたからね。でも、自分で作るようになったのは身上(所帯)を持ってからだね。私はさ、子供の時、小学校の高等科を卒業すると2日家にいただけで、すぐに名古屋に行っちゃったから、挺身隊で。だからごはんの支度なんてやらなかったし、母親に料理を教えてもらうなんてこともなかったね。身上を持ってから、開き屋(魚の干物を作る工場)に働きに出たでしょ、そうするとさそこで働いているおばさんたちがみんな料理を知ってるじゃ。それでこしらえ方を教えてもらったりさ。そうして作るようになっただよ」

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