歴史をつくる人は、その直前に悩ましい一刻を味わうものらしい。女として初めてアメリカ大統領になろうかというヒラリー・クリントンも例外ではなかろうと推察される。 勝って壇上に立ち、喜び狂う支持者の叫び声に祝福される。無数の風船が上がる。天井から滝のように紙吹雪が降る。感動に声つまらせながら「アメリカは歴史のドアを開いた」といった意味のことを、気のきいたスピーチにまとめて言う。 プレジデントという終身称号を持つ夫ビル(ファースト・ハズバンドと呼ばれるようになるのか?)と腕を組んで、かつてファースト・レディとして住んだ家に、マダム・プレジデントとして入る。世界中が投げる視線の焦点に立つ。目くるめく瞬間。ところが人生の跳躍の前には、えてして躊躇と煩悶がある。

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