アメリカが世界で最も強く最も豊かだった頃のことだ。いまは亡きパン・アメリカン航空は、客があってもなくても、一日も休まずに東回りと西回りの世界一周便を飛ばしていた。どちらかが001便、逆方向が002便だった。むろんジェット旅客機が就航してからの話である。 西回り便は夕方に東京(羽田)を発つ。香港かマニラを経てバンコク、ラングーンという順に刻んでいく。ニューデリーで真夜中になり、カイロかアテネで夜が明ける。昼前にパリまたはロンドンに着く。旅客機は今日より頻繁に給油しなければならなかった。当時の日本人は好んでJALに乗ったから、この東京発夜行便は空いていた。

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